元国会議員公設秘書が書く、東京都人権条例は議会でこう質問するべき


坂井崇俊@AFEE編集長です。

東京都議会の第3回定例会に「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(案)」が提出されました。(全文はおときた駿都議のブログリンクから)

本条例に対しては、各方面から懸念の声が上がっていますが、国会議員の公設秘書として、数々の法案の質問を書いてきた経験として、この条例にはこんな質問を議会でして、この部分を勝ち取りたいなという質問の構成案を作ってみました。間に合うのかどうかは不明ですが、実際に取り上げてもらえるのであれば嬉しい限りです。

実際に問題点を指摘するのはもちろんですが、こうやって質問を構築しているんだということを知ってもらえればと思っています。国会での質問は悪いこと・問題点を指摘することが目的ではなくて、こちらにとって都合の良い答弁を得ることが目的だと僕は思っています。

以下では一問一答形式を想定しています。都議会本会議では一括質問・一括答弁という非常に間延びして問題のある形式なのですが、この際そのことは、おいておきましょう。

性自認・性的指向箇所について

(趣旨)
第三条 都は性自認(自己の性別についての認識のことをいう。以下、同じ。)及び性的指向(自己の恋愛又は性愛の対象となる性別についての指向のことをいう。以下同じ。)を理由とする不当な差別の解消(以下、「差別解消」という。)並びに生自認及び性的指向に関する啓発等の推進を図るものとする。

ここでは、間接的にこの条例における「性的指向」についての定義をしています。「いかなる種別の差別も許されない」ということを目指すのであれば、まずはこれを逆手に取ってジャブを打ちます。

「この法律では、性的指向について「・・・」と定義していますが、性的な指向は決して性別だけに依存するものではありません。対象物や年齢などその指向は人それぞれによって様々です。なぜ、今回のこの条例では、その範囲をなぜ、性別の指向のみに限定したのでしょうか。条例の趣旨である多様な性の理解の推進を目的に照らせば、性別のみならず全てを性的指向の対象とするべきではないでしょうか」

まあ、無難な答えが帰ってくるでしょう。タイミングがどうとか

「今回の条例の趣旨である”多様な性の理解の推進””いかなる人の人権尊重”に照らせばば、仮にその性的指向が実在しない人物であったり、あるいは、刑法上性交が認められていない児童に対するものであったとしても、実際に犯罪に結びつかない限り、その個人の指向は最大限尊重され、いかなる差別も受けないよう、都は責務を果たすべきだと考えるがいかがでしょうか」

まず、一つ目に勝ち取りたい答弁はここですね。建前上、いかなる人の人権尊重や性的指向を理由とする差別的取り扱いの禁止、多様な性の理解の推進を掲げている以上、これを否定する答弁は言いづらいです。まぁ、論点をすり替えて、うやむやな答弁をすると思いますが、どんな性的指向であったとしても差別はしてはいけないという答弁は勝ち取りたいところです。『ロリ・二次元好きであっても差別はダメ』と行政に自分の口で言わせることです

(都民の責務)
第六条 都民は、この条例に基づき実施する差別解消の取り組みの推進に努力するよう努めるものとする

行政や事業者がLGBT(SOGI)について差別的取り扱いをしてはならないのは分かります。ただ、これを個人レベルの義務とするべきかどうかについては議論の余地があります。そこで、この質問です

「今回の条例では個人にも差別禁止の努力義務を設けていますが、これは、当事者自身から個人の努力義務とすることを”明確に”求める声があったのでしょうか」

ここら辺は事前のレクチャーで潰しておいてもいいかも知れませんね。想像ですが、当事者からはこういった声は出てないのではないでしょうか。出てきたとしても、誰か一つの意見であり、定量的なデータはないはずです。定量的なものでなければ、「私の知り合いの当事者の方は都民にまで努力義務を課すことはやり過ぎだと言っている」と言えば、同じ土俵に乗れます。「立法事実=その法律はなぜ必要なのか」について、行政と議論するべきです。立法事実がないのに条例を作るのは、為政者の単なる思いつきでおかしな話です。

同様に、(レクでの回答次第ですが)都民に責務を課す条例は現在何本あるか聞いてもいいかも知れません。立法されている法律が少なければ、なぜ、個人に義務を課すのかについて丁寧な説明が求められます

ヘイトスピーチについて

(定義)
第九条 表現活動 集団行進及び集団示威行為運動並びにインターネットによる方法その他手段により行う表現行為を言う。

まずは、定義の確認ですね。後々に生きてきます

「9条ではヘイトスピーチの対象となる表現活動について定義をしていますが、この中には”小説やマンガやゲーム等による表現”、”インターネット上で発表するSNSやブログ”なども含まれますか」

細かいと思うかも知れませんが、こういった用語の確認は必要です。条例には「その他手段」と書かれていますので、上記の表現も含まれるはずです

ここで、ちょっとこの法律の説明を

(公の私設の利用制限)
第十一条 知事は、公の施設において不当な差別的言動が行われることを防止するため、公の私設の利用制限について基準を定めるものとする

(拡散防止措置及び公表)
第十二条 知事は、次に掲げる表現活動が不当な差別的言動に該当すると認めるときは、事業の内容に即して当該表現活動に係る表現の内容の拡散を防止するために必要な措置を講ずるとともに、当該表現活動の概要等を公表するものとする。(略)

(審査会の意見聴取)
第十三条 知事は、(略)表現活動が不当な差別的言動に該当するおそれがあると認めるとき(略)は、審査会の意見を聞かなければならない

11条で、都の公園や公民館などの利用を制限出来ます。12条で、今度は過去に発表したものが差別的言動であるときは、さらに拡散することを都は防止できます。ただ、その時に13条で審査会の意見を聞くという流れになっています

まずは11条について、

「”不当な差別的言動”は一昨年国会で成立したいわゆるヘイトスピーチ禁止法によると”公然と本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動を言う”とあります。ここで重要なのは公然と行うという点であります。念のため確認ですが、閉じられた会議室で身内だけの集まりであれば、公然とという要件は満たさないため、どのような会合であってもこの条文をもとに利用制限を行うことはできないと理解していますが、その点間違いないでしょうか」

ここは、実務的には極めて大切な質問です。どういった答えが返ってくるかは分かりませんが、いずれにしても、都がこの条例で何をやろうとしているのかがはっきりするからです。デモに公園を使わせたくないのか、あるいは会議室で勝手に会議することまでを禁止したいのかです。

密室で、自由に会合することまでを制限することは、明らかにやりすぎと思いますので、この点ははっきりとここで明確な答弁を得ておきたいものです。細かいところききたいですが、次いきます

「まず12条での対象範囲ですが、これは海外在住の外国人を含む全ての人が、インターネット上で行う行為もその対象になるのでしょうか。その点、確認です」

ここでも、確認です。先ほどインターネットでの表現活動も対象とありましたが、この12条では都民以外のインターネット上での表現を禁止しています。東京都の条例だとおもって安心している方もいるかも知れませんが、都民以外でも対象となることを明確化しておきます。

「12条ですが、都は表現の内容を拡散するために必要な措置を講ずるとありますが、この措置には、今の11条に当たる会議室等の利用制限、表現物の販売の禁止、インターネット上での発表の禁止などを含みますか?」

これも確認ですね。まず、11条の会議室の事前の利用制限は、過去に仮にヘイトスピーチを行った団体だとしても、今回どの集会をやるかはやってみるまで分かりませんからこれも事前に禁止する事は極めて問題だと思っています。答弁次第では、この点はしっかり詰めないといけません。

また、表現物の販売禁止やネット上での発表禁止まで都が意識しているとすると、それはかなり大きな問題です。また、プロバイダーに依頼するなどの実行措置が伴えば、影響範囲は東京都だけに留まらなくなります。いずれにしても、こういった事実の確認をすることで、問題点がクリアになっていきます。理念がおかしいと否定したところで、議論のかみ合わないで時間を潰すだけムダです。ここで、そこまですることは考えていないという答弁が得られれば、それは、一つ課題が小さくなったことになりますから。

ただ、こういった質問は事前に行政と詰めて、どのあたりが行政がやろうとしている線引きになるのかを見極めておくことが必要になります。その線のちょっと内側・外側の質問をすることで、その線引きが明確になります。そういった意味で事前のレクチャーは非常に大事です。上の質問で、都から「そんなことは全く想定していません」という答弁が来た場合、そこまで強権発動しないから安心だということは分かっても、どの部分までは強権を発動する可能性があるのかが、議事録に残りません。

(表現の自由等への配慮)
第十八条 この章の規程の適用にあたっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない

ここも、最後に理念的なところで締めくくっています。ここを議会の質問の中で取り上げて、有効な答弁が帰ってくるとは思いづらい箇所です。敢えて、言うとしたら

「この条例の制定により、不当な差別的取り扱いとは言えない表現についても、表現の自粛が起きる可能性があることを都として認識しているのか」「認識しているのであれば、積極的に事業者に対して、(法令に反しない限り)表現の自粛を求めるのではなく、様々な表現を許容するという都の姿勢を打ち出すべきではないか」

こんなところの質問になるのでしょうか。どのみち、それは出来ないっていう答弁が返ってくるとは思いますが、役人自身もその点は非常につらいところだと思っていると思うので、まぁ、意地悪で質問するという程度ですね。今後、こういう法律を作るときは極めて自制的に作ってねと言うメッセージです

まとめ

実際の質問はこの前後に、基本的な人権は守るべきだ。ヘイトスピーチは良くないといったことの前文を入れて、最後に、表現の自由は大事だって言う言葉を残せば、一通りの質疑になりますね

この条例をオリンピックに絡めて出すのはナンセンスだいう意見も確かにあります。僕もそう思います。ただ、議会の中でそれを行政に問いかけても、認識が違うので議論がかみ合わず、結局、何も有効な答弁は取れません。今回書いたように、きちんと事実の確認、認識の確認、こちらのとって都合の良い答弁を得るという作業をしなければ、結局の所、意味はありません。きちんと、事実を確認し、問題点を行政の口から明確にしてもらい、概念ではなく中身で議論できる議員が多く育ってもらいたいものです。

もちろん、Twitterやその他の場で、この条例についてのナンセンス加減について論じるのはそれはそれで自由です。今回は、この条例の問題点(となるであろう点←誰か議員が聞いて確定してくれないと、問題かどうかすら分からない)と同時に、どうやって、議員が行政に対して対峙していくべきなのかという僕なりの考え方を書いてみました。

AFEE編集長・元国会議員公設秘書 坂井崇俊(@takato1204

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