映画「愛と法」が東京でも上映中!ということで、
観に行ったAFEE編集員…榊原@sakas(以下:榊原)、中谷基志(以下:中谷)、うどんのでんすけ(以下:うどん)の3名でSkypeにて感想を話し合いました。
榊原:みなさんいつ観に行かれました?
中谷:自分は公開二日目、日曜日です。
うどん:公開初日、2回目の上映です。初回は予約が取れず断念せざるを得ませんでした。
榊原:自分は初日の第1回目に行きました。満員で立ち見も出てましたね。
中谷:大人気だったんですね。
うどん:webニュースにも取り上げられたほど。
榊原:お二人は全体的な感想どうでしたか?
中谷:映画自体はふんわりした雰囲気で、万人受けする感じですね。
登場人物は、自分たちにはなじみのある人が多く、オールスターキャストでもありました。
榊原:ふんわりってのは確かに。
映画のサイトにリアル版「きのう何食べた?」と紹介されていたので、その通りだなと。
うどん:私は全体的に人の暖かさ、大阪の言葉に人間味と柔らかさを感じました。
問題提起しつつも、それ以上に自分を貫く人々をそのまま描いたという印象です。
中谷:取り上げられたいろいろな問題に初めて触れる人にも、入っていきやすい入り口になるかなと思います。
榊原:舞台挨拶の時に戸田監督がおっしゃってましたが、メインは海外から見た視点なんですよね。
中谷:英語のテロップがずっと入ってたので、最初から海外での公開を意識した作品なんですね。
榊原:なので、一つの問題を深堀りするというか、色々な問題がありますよー的な意図で構成された作品だと思います。
うどん:舞台挨拶にて監督が今後日本語字幕も載せると仰っていました。国籍や障害に関わりなく「インクルーシブ(包摂)」して問題を語る姿勢に心を打たれます。
榊原:お二人は印象に残ったところありますか?
中谷:南弁護士の弾き語りは印象深かったですね。弁護士もできて音楽もできるのかという。
榊原:全体的にいろんな人が歌ってましたよねーw
中谷:曲の歌詞や語られることを見ていると、素朴に希望を持ったり自分の気持ちを出したりできる人柄なんだなと思いました。
榊原:そのあたりも漫画のキャラみたいだなぁと。
中谷:あと、音楽に関しては決してキレッキレではないんだけど、若干ヘタウマでもそのまま人前に出すっていうスタイルが、弁護士としての活動スタイルと一致しているのかなと思いました。
うどん:同感です。
私はろくでなし子さんが実はウィッグで化粧するシーン、南・吉田両弁護士の睦み合うシーンも印象的でした。素に切り込んだというか。
中谷:南弁護士の話ばっかになっちゃいますけど、弁護士として世の中の不条理や暗い部分を目にしながらも、希望とか前向きさとかを出していけるところが稀有だなと思いました。
うどん:舞台挨拶でも南弁護士は進行役で漫才のようだったと監督が仰っていました。
彼だからこそ両親を早くに亡くした吉田弁護士を支えられたのかもしれません。
中谷:監督がそういうところを特にクローズアップされたのかもしれませんが。
あと、南さん吉田さんの問題意識の枠組みの中で、マイノリティの問題、弱者の問題、表現の自由の問題がかみ合っていて、それはちょっと前の時代には普通だったと思うんですが、昨今だと食い違ってきてる気もするんです。
榊原:マイノリティからの視点だからこそ見える問題ばかりでしたね。
うどん:ですね。
中谷:なので、マイノリティの問題、弱者の問題、表現の自由の問題がかみ合ってるものだって、映画を見て初めて知る人たちには思ってほしいなと願望しました。
うどん:多数派からはなぜ個別問題に映るか、気になります。
中谷:うがった見方をすると、南・吉田的な世界観の中にいがみ合いを持ち込んでいるのがどういう種類の人たちか、よく見てみると何かわかるんじゃないかと思いますね。
榊原:ざっくりした解釈ですが、登場するほぼ全ての問題が「保守的なやり方vsマイノリティ」でしたよね。
うどん:確かに。保守的なやり方にのっとると、どの問題も問題にならない。
榊原:それくらい我慢しろよ。みたいなね。
マイノリティな問題とはいえ、なし子さんも劇中で言ってたように「みんなにも起こるかもしれない問題」なんですけどね。
うどん:逆に信念がさほど強くなければ法が変わった際に良くも悪くもすぐ適応できます。
君が代斉唱の問題では、個人の理由はどうであれ、大多数の教員は国家斉唱で起立するようになりました。
「(今まで)多数派だったはずなのに、いつの間にかマイノリティ」
この先生の発言が胸に刺さりました。
中谷:映画中の問題、性的少数者・法的に不利な立場の人・貧しい人・表現の自由を求める人、っていう感じでしたかね。
君が代斉唱の際に起立しなかったために不利な扱いをされている学校の先生の問題は、表現の自由の問題であると意識することが、われわれにとっても重要なんじゃないかと思いますね。
物事はマンガ・アニメ・ゲームだけで完結しないし広がっているという意味で。
榊原:ですよね。オタクとしてあんな目にあったらと思うとゾッとしました。
中谷:マンガ・アニメ・ゲームの自由を訴える時に、君が代斉唱で起立しない人たちのことも思い出したいですね。
うどん:吉田さんも劇中で「法は何を守ろうとするのか。共同体であり、こぼれそうな個人は守らないのか」と発言していましたね。
中谷:南さん吉田さんにとっては、法律は弱者を守るための道具であって、司法とか検察の問題があっても、それを正していけるという希望は失われていない気がしますね。
榊原:その辺りもマイノリティのためのヒーローって感じでかっこいいなと思いました。
中谷:あと、「家族」ですかね。家族とか家族に似たものが、大事なものとして描かれていた。
うどん:AFEEメンバーとはある種対照的ですね。
榊原:僕は血縁によらない家族の描写には共感しましたね。カズマ君いいキャラ。
中谷:われわれは家族とかそれに似たものを求めることはあるんでしょうかね?
うどん:自らでメンバー選択できるコミュニティは求めたくなります。そして、それを家族にしたいと望みます。血縁はその対極、選べないんですよね。そこが(オタク)趣味の自由主義と対立しかねない。
中谷:カズマ君的な、新しい世代で古い偏見にとらわれないという姿にはわれわれも希望を持てるかもしれないですね。
うどん:オタク世代のその先の、新しい価値観が育つのが楽しみです。
榊原:とりとめなく続きそうなんで、そろそろみなさんの総評をお願いします。
中谷:広くいろいろなマイノリティの問題を取り上げた映画なので、この問題に初めて触れるいいきっかけになると思います。カズマ君のように、古い偏見にとらわれない人たちが、この映画を通じて社会にたくさん出てきてくれたらいいなと思います。
うどん:「表現の自由の根底は意見表明の自由」表現の自由の根幹ははこの点だと思います。AFEEはあくまで派生する特定のテーマを扱っていることに自覚的になりたいです。表現規制問題に取り組むなら思想や種々のマイノリティ問題を根幹から学び体得する必要があると感じました。
意志表示が加速度的に許容されなくなる日本で、自らを貫こうとする人々に魂の輝きを見出しました。登場する方たちは、己の信念や感覚に殉じているように見えました。貫くのは否定されて痛くてしんどいこともあるが、皆気高く、ある種ののびやかさに感銘を受けました。私自身も含め、自分を肯定できる方が増えて、それが許容されやすくなる世の中になってほしいと素朴に思います。
榊原:ろくでなし子さんの件は話題に上がっていたのでよく知っていましたが、それに関わっていた弁護士の方々のキャラクターに触れたのは今回初めてで新鮮でした。
中谷さんおっしゃったように、戸籍制度の問題や君が代規律問題など同じ視点で見ることもできるなと感じられたのはよかったです。
これからも関連する題材の映画やアニメなどあったら編集員ブログで感想言い合いたいですね。
(※これら意見はAFEEの総意ではなくあくまで編集員個人の意見です。)