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秋葉原広告取り下げ問題を整理する(AFEEマガジン第12号より転載)

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AFEEマガジン第12号に掲載した当記事ですが、社会的意義と作者の温泉半熟卵さんの意向からWEBでも公開いたします。

秋葉原広告取り下げ問題を整理する

作:温泉半熟卵

11月1日。とある成人向けゲームの大型広告が、秋葉原のとあるビルの壁面に掲載されました。この広告とそれに対する行政の対応を巡る騒動は、ここから始まりました。
11月8日、Twitter上で「千代田区からメールで『千代田区生活環境条例に基づき、当該広告の掲出店舗に指導を行う』と回答を得た」と主張する呟きが発信され、拡散されました。その後11月19日、ニュースサイト「Wezzy」に、千代田区担当者から「東京都と千代田区が連携して、東京都青少年健全育成条例に基づき広告を不健全と判断、指導し撤去させた」という発言があった旨を載せた記事が配信されました(この記事は後に大幅に訂正され、「東京都と千代田区の間で情報交換があった」という内容に書き変えられました)。
この出来事に関しては、流れた情報が断片的だったり不正確だったりしたことで、全体像を掴むことが難しくなっていました。今回は、この件について実際に東京都や千代田区に問い合わせを行って下さった、南條ななみさん(@nnanjoh)と坂井崇俊さん(@takato1204)から伺ったお話を元に、改めてこの出来事を整理したいと思います。

東京都および千代田区の条例と担当部署を整理する

この出来事を正確に理解するためには、東京都と千代田区それぞれに存在する「広告についての条例」の内容と、その担当部署について把握する必要があります。これについて、南條さんに説明してもらいました。

南條(以下・南):「最初に千代田区生活環境条例ですが、これは千代田区の『地域振興部安全生活課』が担当している区条例です。『安全で快適な生活環境を守るため』として、主にごみのポイ捨てや違法駐車への対応について定めていますが、この第十四条に『青少年に悪影響を与える広告の掲載等』を禁じる内容があります」

11月8日に発信された呟きには、実際に千代田区から送られたメールの文面をスクショした画像が添付されています。この画像には、確かに担当部署の名前として「地域振興部安全生活課」の名前があります。
一方、11月19日発信のWezzy記事では、取材を受けた千代田区担当者の部署は「環境まちづくり部」とされています。この部署は、一体どのような部署なのでしょうか?

南:「東京都には、広告の大きさや位置、掲載方法等を定めた『東京都屋外広告物条例』という条例があります。この条例は、実際の運用を各市区町村の担当部署が行うことになっており、千代田区の担当が『環境まちづくり部環境まちづくり総務課』となっています」

Wezzyの記事には、「東京都青少年健全育成条例」についても言及がありました。この条例の内容とその担当部署についても、改めて確認しましょう。

南:「東京都青少年健全育成条例は、いわゆる『不健全図書』の指定等に関連する都条例で、第十四条に『不健全と認められた広告に対し、内容の変更等を命じることができる』とする内容があります。この都条例と関連する市区町村の部署はありません。東京都の都民安全推進本部が担当になります」

「協議中に広告がなくなった」地域振興部、
「広告内容には対応できない」環境まちづくり部

南條さんは、千代田区の「地域振興部」「環境まちづくり部」それぞれに対して問い合わせを行い、回答を得ました。その内容について、詳しく教えてもらいました。

南:「地域振興部の方からは、『「あの広告は何かの条例に抵触するか」と問い合わせを受けたので「千代田区生活環境条例に当たる可能性がある」と回答した』との説明を受けました。当該広告についてはどのように対応すべきか協議は行っていた様ですが、結局『協議中に広告がなくなったため、そこで終了した(対応は行わなかった)』とのことです。
環境まちづくり部からは、『絵の内容についての問い合わせのメールがあったが、東京都屋外広告物条例には広告の内容についての規定がないので、広告の内容に対しては対応できない』という説明が得られました。
実は今回、小野なりこ千代田区議にも確認をお願いしたのですが、小野区議からも環境まちづくり部は『表現については一言も触れていません。内容については環境まちづくり部では口出しできないんです』『こんな内容の広告があるのに何もしないのか! と言われてもどうすることもできないんです』『私達は何もしていません。対応を行ったのは東京都なんです』という反応だった、と伺っています」

「東京都と千代田区の間でやり取りはあったのか?」「あったとすればどのような内容だったのか?」という点についても、環境まちづくり部からある程度説明があったとのことです。

南:「環境まちづくり部によると、東京都に対し『広告の内容について問い合わせが寄せられているのだが』と電話で相談を行ったそうです。問い合わせの翌日に東京都から『その広告については既に現地調査を行った』『店主からも広告は差し替えると聞いた』と回答があった、とのことです。この現地調査に千代田区側の人間は同行しておらず、現地調査の様子は全て東京都からの伝聞で知ったことであると聞いています。」

訂正後のWezzy記事には、東京都都民安全推進本部の担当者から見た千代田区とのやり取りに関する証言が載っており、「都民安全推進本部は11月5日に都民から広告についての問い合わせを受け、その日に現地調査を行った」「千代田区からは11月8日に問い合わせを受けた」とされています。この点については、都民安全推進本部に問い合わせた栗下善行都議がTwitterで行った「都民安全推進本部に千代田区から問い合わせが来るよりも先に、都民から問い合わせがあった」旨の説明とも矛盾しません。

都民安全推進本部の
「現地調査」について再確認する

ここまで、主に千代田区の視点から秋葉原広告取り下げの経緯を追ってきました。ここからは坂井さんに、都民安全推進本部に問い合わせた結果について説明してもらいます。

坂井(以下・坂):「訂正後のWezzy記事内容に齟齬がないかを主に確認しました。11月5日に都民からの問い合わせ(申出)があったこと、その日のうちに現地調査を行ったこと、現地調査の際に掲示店舗の店長にも聞き込みを行ったこと、その日のうちに店長から『広告の差し替えを決定した』こと、いずれも間違いないとのことです」

東京都青少年健全育成条例第四条の三に『都民の申出』について規定があり、申出があった場合は都が適切に対応することが求められています。今回の現地調査は、これに基づき行われたとのことです。

坂:「『この現地調査は広告の掲載期間等の事実確認』『取り下げ等の措置を求めたものではない』ことは強調されました。東京都青少年健全育成条例には『不健全図書の指定(第八条)』や『不健全な広告に対する措置の命令(第十四条)』を行う際、東京都青少年健全育成審議会の諮問を必要とする旨の規定があります(第十八条の三)。審議会を経ずに不健全図書の指定を行ってはいけないのと同様、審議会を経ずに広告の取り下げ等を命じてはいけないし、また実際に命じていない……というのが、今回の都民安全推進本部の主張です」

今回最も問題視すべき対応は、
都民安全推進本部の「店長への聞き取り」では?

ここまでの情報を総合すると、まず「千代田区の動向が広告の掲載を左右することはなかった」ことが言えるのではないかと思われます。店長が差し替えを決定したのは11月5日であり、「千代田区生活環境条例に基づく対応」の可能性が示唆された11月8日より先だったからです(なお弁護士ドットコムの記事によると、広告の差し替え作業自体も11月8日のうちに完了していたとのことです)。
とは言え、これが結果論に過ぎない部分はあります。坂井さんは、「千代田区が、市民からの問い合わせに対して、広告について指導することが決定していないにも関わらず、『指導を行う』と返答したことは問題」と説明します。

坂:「また、千代田区生活環境条例第十四条には『何人も、善良な風俗を害し青少年に悪影響を及ぼす活動を行い、その活動に関し広告物の掲出、チラシ、パンフレット等の配布等を行ってはならない』としか書いてありません。『屋外』や『不特定多数』といった限定要件がなく、該当する可能性のある範囲があまりにも広い。このような内容の条例はおかしく、個人的には憲法違反の疑いすらあると考えています」

同時に坂井さんが強調したのが、「今回最も問題視すべき対応は、東京都都民安全推進本部の現地調査、特に『店長への聞き取り』ではないか」と言うことです。

坂:「東京都が現地調査に行った後に店舗が広告を差し替えたこと、結果的に都の圧力が広告をやめさせた格好になっていることを問題視しています。
東京都青少年健全育成条例の第十四条にある『不健全な広告』の定義は、第八条の第一号にある『不健全図書』の定義と符合しています。つまり条文上、性的な理由で『不健全な広告』と認められるには、その広告の内容が『不健全図書』並みであることが必要なんです。あの広告が『不健全図書』並みであるとは、到底思えません。
現地に現物を見に行くのはまだいいとしても、現物を見て『この広告が不健全指定に該当する恐れはない』と分かった時点で帰るべきだったのではないか、店長に話を聞く必要はなかったのではないかと思います」

同様にこの点を問題視しているのが、東京都都民安全推進本部に問い合わせを行った西沢けいた都議です。西沢都議は問い合わせ後の呟きで、次のように述べています。

今回都が現地調査に行くことによって事業者が自ら撤去したと推測できますから今後の表現の委縮が起きないようにしないといけませんね。
都民の申し出→現地調査→撤去→実質的な都による表現規制

行政が必要以上の対応を行うこと、それによって表現が窮屈になってしまうことが起きることを防ぐには、東京都を含む行政の動きを注視し続けることが大事だと改めて感じました。

情報の整理ができることはとても心強いこと

最後に、この記事が生まれた経緯について触れさせて頂ければと思います。一言で言うと「この出来事の全体像を、私自身よく分かっていなかった」ことが大きなきっかけになっています。
AFEE役員会に参加した際に「結局この出来事って何だったんですか?」という疑問を口にしたところ、その場にいた南條さん・坂井さんから「調べてみたんだけど、あれはこういうことだったらしい」「問題の要点はここにあったと思う」ということを教えてもらい、ずっと悩んでいたことを一通り整理することができました。「この整理された情報を、ぜひより大人数で共有したい」そんな思いから、今回この記事を書きました。
マンガ・アニメ・ゲーム等を守るために行動する仲間がいるAFEEと言う場がなければ、恐らく私は今もこの出来事について理解できず、モヤモヤした気持ちを抱えたままだったことでしょう。
今後もマンガ・ゲーム・アニメ等についての出来事は起こるでしょうし、その中には今回のような理解が難しい出来事もきっとあるでしょう。その時でも一緒に問題を読み解き整理する仲間がいてくれるといいな、願わくばそんな仲間を少しずつ増やしていければと、私は思います。

関連URL

広告の写真を添付したゲームメーカーの呟き
https://twitter.com/milkfactory_/status/1190189530449473536

千代田区(地域振興部安全生活課)からのメールのスクショ画像が添付された11月8日の呟き
https://mobile.twitter.com/pii41/status/1192751472972165120

Wezzy記事
https://wezz-y.com/archives/70696

弁護士ドットコム記事
https://www.bengo4.com/c_23/n_10366/

栗下都議の呟き
https://twitter.com/zkurishi/status/1197384197838491648

西沢都議の呟き
https://twitter.com/nishizawakeita/status/1197067488539709440

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