内閣府では、「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)に対する意見募集」を行っています。AFEEでは本件意見募集に提出しましたので皆さんにご報告いたします。
なお、本件については事前に役員会案を会員の皆さんにご意見を伺い(リンク:会員限定)、そのご意見を反映させたものになります。(4人より9つのご意見)
「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」に対する意見
男女共同参画社会の実現については、当然目指すべき方向であり、理念には強く賛同する。しかしながら、「男女共同参画」という理念に対しては、さらに上位におかれなくてはならない理念(一例として平和、平等、基本的人権など)が存在し、それらと調和し、他の権利と競合する場合においては、合理的かつ平等な解決をうながすものでなくてはならない。あいまいな箇所や歪曲して解釈される余地が存在することで、一方的に「男女共同参画社会の実現」のみが重視されるような状態であってはならない。
第1部 基本的な方針
2 社会情勢の現状及び課題
(5) 国内外で高まる女性に対する暴力根絶への問題意識 (p6)
〇 世界的にも SNS を中心にセクシュアルハラスメントや性暴力などの性被害の経験を告発する「#MeToo」運動が話題を呼ぶなど、女性に対する暴力に関する問題の根深さが改めて浮き彫りになるのと併せ、これらの問題の根絶を求める声も広がりを見せている。
「#MeToo」運動は負の側面として、男女間の接触を過度に萎縮させたり、性被害者の証言を無根拠に正としている、私的制裁の性質がある、回復困難な人権侵害の可能性がある等の指摘があり、政府はその負の側面とは一線を画すということを明示するべきである。
3 5次計画策定における基本的な視点と取り組むべき事項等 (p9)
支援を必要とする女性等が誰一人取り残されることのないことを目指す
本項では、「男女共同参画を推進していくことは、一人一人が個性と能力を十分に発揮できる、持続可能な活力ある社会にとって不可欠の前提である」と述べ、男女共同参画が社会のすべての個人の幸福に寄与することを示している。その点を踏まえ、「支援を必要とするすべての人が誰一人取り残されることのないことを目指す」と言い換えるべきである。
また、新型コロナウイルスによる感染症の拡大は、平時の固定的な性別役割分担意識を反映したジェンダーに起因する諸課題を一層顕在化させている。
一般論として認知されていない論にも関わらず、記載内容が断定的であるため、その論を補強する事実を記載するべきである。
(5)基本的な視点及び取り組むべき事項 (p10)
女性に対する暴力をめぐる状況の多様化に対応しつつ、女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けて取組を強化する必要
一般論として刑法等で処罰されるべき暴力以外の暴力と呼ばれるものの中には、他の人権との調整が図られるべきものも存在し、「根絶」という強い表現を用いるのであれば、「あらゆる暴力」ではなく限定的な表現とするべきである。
多様な困難を抱える女性等に対するきめ細かな支援を行うことにより、女性が安心して暮らせるための環境整備を進める必要
「女性が安心して暮らせるための環境」の定義として、他者の権利を一方的に制限する場合なども念頭に置き、広範に認められるべきものでないことを明示するべきである。
第2分野 雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和
【基本認識】 (P24)
新型コロナウイルス感染症が流行するような非常時には、女性がより職を失いやすくなる懸念があり、
現在進行形の「懸念」であり、長期的な計画である基本計画の方針への記載は不適切である。
第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進
【基本認識】 (P38)
男性の視点で行われてきた研究や開発プロセスを経た研究成果は、女性には必ずしも当てはまらず、社会に悪影響を及ぼす場合もある
学術研究の結果はそれぞれ個別に評価・考察されるべきであり、「男性研究者による研究『であるから』成果が女性に当てはまらない場合もある」という考察はジェンダーバイアスを内包しており、当該ジェンダーバイアスを公文書に記載することは不適切である。
2 男女共同参画と性差の視点を踏まえた研究の促進 (P38)
これまでの男性の視点で行われてきた研究・開発プロセス
女性の視点を取り入れた研究プロジェクト
生物学的ないし社会的性別に対し一律に結びついていて相互に異なる「男性の視点」や「女性の視点」というものが「存在する」とする前提そのものにジェンダーバイアスが存在している。当該ジェンダーバイアスを公文書に記載することは不適切である。
第5分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶
3 子供、若年層に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進 (P47)
〇 いわゆるアダルトビデオ出演強要問題・「JKビジネス」問題等をはじめ、子供、若年層に対する性暴力被害の予防等のための、被害防止啓発、国民意識の向上に向けた取組を強化する。
「JKビジネス」には定義により成人が女子高校生の制服等を着てサービス提供を行うものも含まれることもあり、ここでの「JKビジネス」は女子高校生または18歳未満の者によるものであると定義を明確化するべきである。
8 インターネット上の女性に対する暴力等への対応 (P54)
〇 インターネット上のメディアを含む、メディアにおける不適切な性・暴力表現を防止するため、関係機関等と連携した広報啓発の推進等の適切な対応を行う
不適切な性・暴力表現の指す範囲が広範であり、また、実在しない人物に対する表現等も含まれる懸念もあり、その点を払拭すべく範囲を限定するべきである。また、この章全体を通して「表現の自由」への最大限の配慮の項目が欠けており、追加するべきである。
③ インターネット上の児童ポルノ画像や盗撮画像等の流通防止対策を推進する。また、インターネット・サービス・プロバイダによるブロッキング等の自主的な取組を引き続き支援し、児童ポルノ画像の閲覧防止対策を推進する。
盗撮画像等の表現があるが、例えば、公益目的での音声と顔のみを密かに撮影した動画などもこの中に含まれる可能性もあり、法的根拠に基づいた施策となるように定義を明確化し、範囲を限定するべきである。
第5分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶
2 性犯罪・性暴力への対策の推進
(2)具体的な取組(P46)
5 性犯罪の被害者は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等の精神的な疾患に苦しむケースが少なくない現状を踏まえ、捜査関係者において、被害者の精神面の被害についても的確に把握し、事案に応じた適切な対応を図る。
PTSDについては、その態様は個人ごとで異なることから、心理の専門家等を交えて対応を行うべきである旨記載するべきである。
第10分野 教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進
3 国民的広がりを持って地域に浸透する広報活動の展開
(2)具体的な取組(P83)
1 固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見の解消に資する、また、固定観念やアンコンシャス・バイアスを生じさせない取組に関する情報収集を行うとともに、啓発手法等を検討し、情報発信を行う。
具体的なアンコンシャス・バイアスでない状態を定義することには既にバイアスが含まれているため、そこまで踏み込まないことを記載するべきである。また、表現の自由や親の教育権に最大限配慮する旨記載するべきである。
4 メディア分野等と連携した積極的な情報発信
(1) 施策の基本的方向 (p83)
〇 新聞・テレビ・映画・ゲーム・インターネットメディア・広告等の多様なメディアやクリエイティブな分野と連携し、男女共同参画に資する広告やコンテンツ等について積極的に情報発信を行うとともに、女性の人権を尊重した表現の推進をはじめ男女共同参画に関する各業界における自主的な取組を促進する。
「女性の人権を尊重した表現の推進」が指すところの具体的意味が明らかで無いため、「何が男女共同参画を阻害する固定観念であるか」について、国民の議論によって定義づけられるべきである。同時に、「女性の人権を尊重しない表現」について規制するべきというニュアンスと捉えられないような補足文言が必要である。
(2)具体的な取組 (p83)
男女共同参画を阻害する固定観念の撤廃を目指すために国連女性機関(UN Women)が進める国際的な共同イニシアティブ「Unstereotype Alliance」や、女性の人権尊重や男女共同参画に資する広告等に係る民間団体が行う取組と連携を図る。
国連女性機関、Unstereotype Allianceなどの外部の取り組みについてはあくまで参考とするべきである。特に、「ジェンダーステレオタイプを助長する広告」についての規制については、民間に委ねるべきであり、政府による関与を行わない旨記載するべきである。
女性記者をはじめとするメディア分野等で働く女性のネットワークを構築し、その育成・組織運営に携わる管理職・経営層等を巻き込みつつ、男女共同参画の視点からのメディアにおける取組について認識を共有するとともに、その成果を業界団体等に周知することで各業界における自主的な取組を促進する。その際、中央だけではなく地方とも連携を図る。
メディア分野等で働く人々は、それ自身に業界の利害によるバイアスがかかっている懸念があることから、例えば、(従来の)メディア分野と利害が対立しやすいSNSを排除する主張等に安易に至らないよう、注意するべきである。
第11分野 男女共同参画に関する国際的な協調及び貢献
1 持続可能な開発目標(SDGs)や女子差別撤廃委員会など国連機関等との協調
(1) 施策の基本的方向 (p86)
〇 また、女子差別撤廃委員会や国連女性の地位委員会等における意見や議論を踏まえ、女子差別撤廃条約を積極的に遵守し、北京宣言・行動綱領に沿った取組を進める
第7回及び第8回報告報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(平成28年3月)
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/CO7-8_j.pdf
(20.(c))には「ビデオゲーム、漫画などのアニメが女性や女児に対する性暴力を助長している」と記載されている。これに対して、日本ではマンガ・アニメ・ゲームなどの文化を通じて、性的少数者や子ども時代の性的虐待サバイバーが自分が受けた偏見や被害についての表現を行っており、作者自身にとっても読者にとっても自己のとらえ直しや被害からの回復の手段となっていることの旨の主張を行っている。従軍慰安婦の問題も含め、時に同委員会の主張は日本政府の主張と対立することもあり、必ずしもすべての「勧告」を受け入れる旨ではない点を記載する必要がある。