2026年7月15日に国民民主党が議員立法として参議院に提出した「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」(通称「エロ広告規制法案」)について、AFEEは、その内容が憲法で保障された表現の自由を著しく制約するおそれがあるとの懸念から、本日、国民民主党の玉木雄一郎代表、浜口誠政務調査会長および同党所属国会議員に対し、意見書を送付いたしました。
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代表 玉木 雄一郎 殿
政務調査会長 浜口 誠 殿
党所属国会議員 殿
エンターテイメント表現の自由の会
代表 坂井崇俊
女性支部代表 岩永千絵美
意見書
2026年7月15日に貴党より議員立法として参議院に提出された「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」(通称「エロ広告規制法案」、以下「本法案」)につきまして、弊会はその内容が憲法に認められた表現の自由を著しく制約する懸念から、これまで意見の表明を準備してまいりました。
本法案は同月24日の参議院閉会に伴い本国会での成立には至りませんでしたが、今後同様の内容を含む法案を再度提出することが予想されるため、弊会は本法案が内包していた問題点について改めて指摘し、以下の問題点が解消されないまま、本法案と同様の内容を含む法案が再び提出されることのないよう、強く要望いたします。
【要旨】
- 本法案は、広告を規制対象としながらも、実質的に創作表現そのものへの萎縮効果を及ぼす危険性を強く内包していること。
- 「エロ広告規制法」という通称が、条文上の実際の規制対象と乖離しており、国民及び関係者に著しい誤解を与えていること。
- 「青少年有害情報に準ずる情報」(第23条の7)は定義・例示のいずれも欠き、事業者による過剰な自主規制を招く危険性が大きいこと。
- 罰則構造は実効性に乏しい一方、過剰な萎縮行動を誘発する制度設計となっていること。
- 評価団体に関する規定(第30条第6号)は選定基準・独立性・不服申立て手続等を欠き、実質的に検閲に類する機能を果たしうること。
- 規制対象を大規模事業者に限定する一方、苦情の多くは海外事業者由来であり、実効性を欠いたまま国内事業者・クリエイターにのみ負担を強いる構造であること。
- 既存制度の活用や進行中の自主規制の効果検証を経ないまま、新たな義務を創設する立法事実が十分に示されていないこと。
- 本法案が議員立法として、関係業界団体への十分な事前ヒアリングを経ずに提出されたこと。
- 貴党がこれまで公言してきた「表現の自由を必ず守る」との立場と、本法案の内容との間に看過できない矛盾があること。
【詳細】
弊会は2013年からマンガ・アニメ・ゲームなどのエンターテイメント表現の自由を守る活動を行っている団体です。弊会の活動である「#表現の自由を守るための約束」 には多くの貴党所属の地方議員に賛同頂き、また、年二回のコミックマーケット開催時に行っている超党派街頭演説 にも多くの 貴党所属の国会議員・地方議員の方に演説をして頂いており、ご協力に感謝申し上げます。
さて、2026年7月15日に貴党より議員立法として「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」(通称エロ広告規制法案、以下本法案)が参議院に提出されました。
本法案は貴党ウェブサイトによれば「インターネット上のいわゆる「エロ広告」については、青少年が意図しない形で目に触れてしまう現状に鑑み、本法案は大規模なデジタルプラットフォーム事業者に対して、デジタル広告に含まれる青少年有害情報への対応に関する一定の措置を講じさせる」ことを趣旨としております。
なお、本法案は2026年7月24日の参議院閉会に伴い、本国会での成立には至らず事実上廃案となりました。しかしながら、今後同様の内容を含む法案を再度提出することが予測されることから、弊会は本法案が内包していた問題点を以下の通り詳述し、問題点が解消されないまま、本法案と同様の内容を含む法案が再び提出されることのないよう、強く要望いたします。
なお、弊会は、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境を整備するという目的そのものに反対するものではありません。
弊会が問題としているのは、その目的を達成する手段として本法案に記されている規制の内容、及びその検討プロセスです。以下、具体的な問題点を指摘いたします。
一、創作表現への萎縮効果について
子どもが利用する一般的なウェブサイトやアプリに、性的と受け取られうる広告が表示されているとの指摘があることは、弊会としても認識しております。しかしながら、その対応として広告の内容を広範かつ曖昧な基準で規制しようとすれば、影響は指摘されている広告だけにとどまりません。
近年、広告に用いられる表現は、作品そのものの一場面やゲーム画面がそのまま使用されていることも少なくなく、広告と作品を明確に切り分けることは容易ではありません。広告として「出せない」と判断された表現は、そのまま読者・プレイヤーに届かない表現となります。つまり、規制の対象は広告であっても、その萎縮の影響は作品そのものの制作現場にまで及ぶのです。
特に、傑作とされる多くの作品(『ONE PIECE』『ドラゴンボール』等)も、性的・暴力的な表現を作品の魅力の一部として含んでおり、そうした作品の広告出稿が困難になれば、経済合理性の観点から、今後の創作現場がこうした表現を避ける方向へ萎縮することが強く懸念されます。日本のエンターテイメントが世界的に評価されているのは、まさにこうした多様な表現が許容されてきたからに他なりません。弊会はマンガ・アニメ・ゲームなどのエンターテイメント表現の自由を守ることを目的とする団体として、この点を重く受け止めています。
二、「エロ広告規制法」という通称と条文内容の乖離について
本法案が依拠する現行の青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律第2条第4項における「青少年有害情報」の定義には、性的な描写のみならず、犯罪行為や自殺の誘引、殺人・処刑・虐待等の陰惨な描写も含まれます。すなわち、本法案の実際の射程は性表現に限定されておらず、「エロ広告規制法」という通称は法案の実態を正確に反映していません。
さらに、こども家庭庁が公表する「青少年インターネット環境整備法関係法令条文解説」においても、青少年有害情報は例示された内容に限定されない旨が明記されており、本法案の規制範囲は条文上さらに広がりうる構造となっています。「エロ広告」に限定した規制を意図するのであれば、対象を性的情報に限定する規定を明文で置くべきであり、それを行わないまま実態と乖離した通称を用いることは、国民及び関係者に著しい誤解を与えるものです。
三、「青少年有害情報に準ずる情報」の定義の曖昧さについて
本法案第23条の7は、大規模デジタルプラットフォーム提供者に対し、「青少年有害情報に準ずる程度に青少年の健全な成長を著しく阻害するおそれが大きいと認められる情報」についても閲覧防止のための対応に努めるよう求めています。しかし、この「準ずる程度」がどの範囲を指すのかについて、条文上、定義も例示も政省令への委任規定もありません。
これは、いわゆる「エロ広告」だけでなく、恋愛表現・肌の露出・キャラクター表現等、幅広い広告表現がいかようにも規制対象に含まれうることを意味します。基準が不明確なまま「対応に努めよ、かつ実施状況を毎年公表せよ」という制度が導入されれば、事業者が取りうる選択は「疑わしいものは最初から掲載しない」という過剰な自主規制以外にありません。定義の空白は、規制範囲の空白ではなく、事業者による恣意的な運用の温床となります。
四、罰則構造が招く実効性なき萎縮について
本法案において、閲覧防止措置そのものの不実施に対する罰則は設けられておらず、罰則が科されるのは届出義務違反(50万円以下の罰金)・報告義務違反(30万円以下の過料)という手続違反に限られます。この点で、本法案が直接的な検閲や罰則をもって表現を禁止する建付けにはなっていないことは事実です。
しかし、罰則が弱いことは、本法案が表現の自由に与える影響が小さいことを意味しません。実際には、罰則とは別の仕組みが、以下に述べるような萎縮効果を生み出しています。実施状況の年次公表義務、国民からの通報受付体制の整備義務、第三者評価団体による評価という三つの制度が組み合わさることで、法的な権限を誰も持たないまま、事業者に対する強い忖度圧力が生まれます。事業者にとって最も合理的な行動は、通報や低評価のリスクを避けるために、疑わしい広告を一律に排除することです。これは、実効性のある問題解決には結びつかない一方で、表現の自由に対する萎縮効果だけを最大化する、極めて非効率な制度設計であると言わざるを得ません。
五、評価団体(第30条第6号)の制度設計の欠如について
本法案は、大規模デジタルプラットフォーム提供者による閲覧防止措置の実施状況を第三者として評価する民間団体を、国及び地方公共団体による支援の対象として追加しています。しかし、条文には当該団体の選定基準、独立性の確保、利益相反の防止、評価基準の公開、評価対象事業者による不服申立て手続のいずれも定められていません。
行政が直接判断を下すのではなく、法的な権限を持たない民間団体の評価結果に事業者が事実上従わざるを得ない構造がひとたび成立すれば、「誰も権限を与えていないにもかかわらず、実質的な検閲権限が生まれる」という結果を招きます。加えて、評価を行うことそれ自体が組織の存在意義や予算の根拠となる場合、評価対象を継続的に拡大させようとするインセンティブが働く構造的リスクも指摘せざるを得ません。米国では1954年、法的な検閲ではなく「業界の自主規制」という建付けで導入されたコミックス・コードが、コミック産業に長期にわたる深刻な萎縮をもたらした先例があります。責任の所在が誰にもない検閲は、責任の所在が明確な検閲よりも、事後的な是正や異議申立てが困難であるという点において、むしろ悪質と言えます。
六、規制対象の限定による実効性の欠如について
本法案の義務は「大規模デジタルプラットフォーム提供者」に限定されています。しかし、公益社団法人日本広告審査機構(JARO)が公表した「2024年度審査状況」によれば、性的・猟奇的な広告表現に関する苦情が特に多く寄せられた広告主の上位は、いずれも海外の事業者でした(1位184件、2位36件)。また、苦情全体の27.3%が苦情件数上位50社(全事業者のわずか1.7%)に集中しているというデータも示されています。
すなわち、問題の実態は一部の悪質な事業者、とりわけ日本国内法の執行が及びにくい海外事業者に集中しているにもかかわらず、本法案はこうした事業者を直接に捕捉する制度とはなっていません。その結果、法令を遵守する国内の事業者・クリエイターにのみ負担が偏り、実効性を欠いたまま萎縮効果のみが生じる懸念があります。
付言すれば、仮に広告を巡る問題への何らかの制度的対応が必要だとしても、広告内容そのものを規制するのではなく、出稿者情報や広告配信経路の透明性(トレーサビリティ)を確保する方向性の方が、表現の自由への影響を抑えつつ、より本質的な対策となりうると考えます。
七、立法事実の不足について
そもそも、青少年インターネット環境整備法は既に、18歳未満名義の回線契約についてフィルタリングを原則として有効化する制度を整備しています。こども家庭庁が公表した「令和7年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、フィルタリングの認知率は保護者の95%を超える一方、実際の利用率は49.2%にとどまっており、課題は周知ではなく、契約・解除段階における運用にあることが示されています。
また、JAROへの苦情件数の増加を受け、業界団体への情報提供や、電子コミック・オンラインゲーム業界による自主的な取り組みも既に進行しています。これらの既存制度及び自主規制の効果検証を行わないまま、新たな義務を伴う法規制を導入する必要性については、十分な立法事実が示されていないと考えます。
なお、貴党が公約として掲げてきた「オプトアウト方式」による対応についても、新たな制度や体制の構築を要する点では変わりなく、相応の行政コストを伴います。既存のフィルタリング機能や端末・ブラウザレベルでの広告ブロック機能の周知と普及を進める方が、行政コスト及び経済合理性の観点からも、消費者自身の選択を尊重した、より妥当な対応であると考えます。
八、拙速な議員立法プロセスについて
表現の自由は、日本国憲法第21条によって保障された、民主主義社会の根幹をなす重要な権利です。これほど重要な権利を制約しうる法律を、検討が不十分なまま拙速に作り上げることは、公党として担うべき責務に反するものと言わざるを得ません。
本法案は議員立法として提出され、省庁による実態調査、審議会での審議、パブリックコメント、内閣法制局による審査のいずれも経ていません。加えて、広告表現の直接の当事者となる漫画家協会や出版社、広告関連団体(日本インタラクティブ広告協会他)等、関係業界への事前ヒアリングが十分に行われたとは言い難い状況です。
過去にも、同様に「子どもを守る」という目的の下、拙速な議員立法が行われた例があります。2022年に成立した性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律、いわゆるAV新法には、施行後2年を目途とした見直しを行う旨が附則に明記されていましたが、期限である2024年6月を過ぎた現在に至るまで、その見直しは行われていません。議員立法には、成立後の効果検証や改正を担う主体が制度上明確でないという構造的な課題があり、その結果、本来是正されるべき問題が長期にわたり放置される事態を招いています。本法案についても、同様の轍を踏むことのないよう、十分な事前プロセスを経た上での再提出を強く求めます。
九、党の公約との矛盾について
貴党の玉木雄一郎代表は、これまで「国民民主党は表現の自由を必ず守ります」「表現の自由は憲法21条で保障された権利であり、より高度な保護が必要であって、安易に法律で規制すべきものではありません」「何らかのルールを導入するにしても、それは基本、業界団体の自主的な取り組み(ソフト・ロー)で対応すべき」と繰り返し表明されてきました。また、貴党は選挙公約として、ユーザー自身が広告の表示・非表示を選択できる「オプトアウト方式」による対応を掲げてきたはずです。
しかしながら、本法案の内容は、曖昧な基準に基づく努力義務と、制度設計を欠いた民間団体への支援を組み合わせた、実質的な検閲に類する構造を有しており、貴党がこれまで公にしてきた立場との間に看過できない矛盾があります。貴党が真に表現の自由を尊重する政党であるならば、これまでの発言と整合する形での再検討が不可欠であると考えます。
以上、九項目にわたり問題点を指摘してまいりましたが、弊会はマンガ・アニメ・ゲームなどのエンターテイメント表現の自由を守ることを目的とする団体として、とりわけ、本法案が創作表現そのものに及ぼしかねない萎縮効果(前記一)を重く受け止めております。
上記を踏まえ、貴党に要旨記載の九項目についてご検討いただくとともに、本法案と同様の内容での拙速な再提出を行わないよう強く要望いたします。
参考資料
こども家庭庁「青少年インターネット環境整備法関係法令条文解説」 - https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f71e3886-64d9-4781-9d3a-0d2f07332b82/f97ebf02/policies_youth_kankyou_internet_torikumi_hourei_doc_04.pdf
こども家庭庁「令和7年度青少年のインターネット利用環境実態調査」 - https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/results-etc/r07
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)「2024年度審査状況」(2025年7月10日公表) - https://www.jaro.or.jp/news/20250710.html
玉木代表発言 - https://x.com/tamakiyuichiro/status/1902887485807661095
