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メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に 関する論点の整理(案)に関する意見

AFEEでは、国で行われているメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理(案)へのパブコメを提出いたしました。Discordに寄せられた会員の皆さんの意見をベースに、Discordの公開役員会で議論致しました。

メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理(案)に関する意見

エンターテイメント表現の自由の会
代表 坂井崇俊

弊会は「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理(案)」について以下の通り意見致します。

《要旨》
論点の整理の原案は、コミュニケーションとしてのメタバースについて検討が必要な事項はユーザー視点で課題を抽出できていると考えられる。弊会としてはメタバースにおいても表現の自由、クリエイター支援、コンテンツ振興などが重要と考えている。それらに加え、ゲーム性を重視したメタバースのあり方の検討についての提言を行った。

《全文》

> 我が国のメタバースビジネスの特徴等を踏まえ、その発展等に資する観点から、適切なコミットを図っていくことが、特に求められる。

P7 39-40の我が国のメタバースビジネスの特徴として、個人のクリエイター層が非常に厚く、販売されているアバター、衣装、アクセサリー、ワールド等の3Dモデル、VR-SNSの利用に便利なツール、アプリ類の品質と品揃えは他の国を圧倒している。これらの長所を活かすためにも、表現の自由を保護するとともに、国益に資する強力なソフトパワーとして成長させることに政府はコミットすべきである。

> 意匠法による対応については、クリエイターの創作活動に対する萎縮効果を生じさせる等の懸念もあることから、中長期的課題として慎重に検討することが適当である。

P13 11-12では、クリエイターの創作活動に萎縮が生じないよう、ユーザーやクリエイターによる意匠法に基づく適切な創作ガイドラインの作成を国はサポートすると共に、当該ガイドラインの周知を行うべきである。同時に、諸外国との法制度の差異について調査をすすめ、クリエイターが安心して創作活動できる環境整備を行うべきである。

> 付随対象著作物の利用に関しては、メタバース内では対象物に接近すると大写しになることとの関係や、現実環境の外観をディフォルメを伴って再現する場合の取扱いなどについて、利用される著作物や利用形態などに即し、実務や実態を踏まえつつ、まずは考え方を整理し、その上で、適切に周知を図っていくことが望ましい。

P19 26-30の付随対象著作物の利用に関しては、上記の対応を行うことで問題が無いと考える。特に検討に当たっては、実際の権利者への影響が軽微なものについては、権利制限の対象として捉えることが望ましい。

> 〇 利用しようとする著作物については、メタバースユーザーやサービス事業者等自身において、必要な利用範囲についての許諾を得ることが基本となる。例えば、現実空間における営利を目的としない公の演奏などは、著作権の権利制限の対象とされ、許諾なく行うことができるが、メタバースにおいてこれに相当する行為を行おうとした場合、公衆送信に当たることとなり、権利制限されておらず、その利用に対しての許諾が必要となるなどの点に留意を要する。
> 〇 また、コンテンツ利用に関する既存の一般的なライセンス条項(使用料の算定など)は、必ずしもメタバースを想定したものではないため、利用者側の条件には合いづらいものもあり、そのために利用が断念されることも少なくないと指摘される。
メタバースでは、ユーザーもクリエイターとなるなど、多様な創作活動が展開され、二次創作等も含めた多様な作品が生み出されることとなることから、それら作品に係る権利の取扱いについて、保護と利用のバランスに配慮しつつ、適切なルールを形成していくことが求められる。

P21 3-12〜P22 30-33については、メタバース空間は現実空間と極めて近い空間として捉えるユーザーも多くいることから、著作権法上の公衆送信として捉えることには強い違和感を覚える。著作権法の新たな権利制限規定の創設も視野に入れつつ、検討を行うべきである。

付言すれば、「VR」を「仮想現実(仮想空間)」と翻訳することで、あたかも、そのコミュニケーションがバーチャル(仮想)であると錯覚させることにつながりはしないか。しかしながら、実際のコミュニケーションはリアルで行われており、用語がもたらす間違った認識への対応も必要なのではないか。

> 肖像権の侵害等に当たる可能性について、著名人の肖像を用いる場合、パロディとして用いる場合など、より具体的な事案に即した考え方の整理が進められるとともに、本人の承諾なしに使用する場合の法的リスクについて現場が適切に判断できるよう、それらの考え方が示されていくことが望ましい。

P34 31-35については、ソフトロー的な解決が望ましいと考える。特に、名誉毀損や侮辱に当たらないケースが多いと想定されることから、実際のVR-SNSなどでユーザーの萎縮が生じないようなガイドラインの作成が望ましい。

> ◎ 創作されたデザインのアバターについて、そのデータが第三者にコピーされ、その者のアバターの容ぼうとして盗用されるなどの事案が生じており、ユーザー間のトラブルにもつながっている。
> ◎ メタバース内で、ユーザーは、自己の身体としてアバターを使用し、アバターの姿で活動することで、その世界における社会関係を築くこととなる。こうした活動の積み重ねを通じ、自己の人格の投影ともなるアバターに対し、より強い愛着を形成するとともに、その活動内容によっては、顧客誘引力をもつほどの著名なアバターとなるといったことも起こり得る。

P36 29-35については、海外のYouTuberが、日本人の個人のクリエイターが制作したアバターを不正にパーツをコピーするなどの3Dモデリングをして、動画をUPした。当該不正利用についての是正対応を個人で行うことは難しく、泣き寝入りする結果となってしまった事案が寄せられている。特に、海外のユーザーとのトラブルについては、民間の第三者機関やプラットフォーマーによる権利回復のサポートが必要である。

> 著作権の移転を受けず、ライセンスによりアバターを使用するユーザーが、デザイン盗用等への対抗策を自ら講じていく上では、ライセンス契約時の利用条件の設定に際しても、これを可能とするような設定としておくことが重要となる。関係団体等が作成するライセンス契約のひな型には、それらの条件設定を可能とするオプションが盛り込まれるとともに、各ひな型の解説書、又はライセンスモデル作成に関する共通的な参照文書(ガイダンス)において、それらの条件設定の意義について適切な説明がなされることが望ましい。
原著作者の許諾を得て、アバターのデザインに創作性のある改変(翻案)を加えて使用するのであれば、当該改変に係る二次創作の著作権者として、侵害者に対抗することが可能となる。

P40 1-17〜P42 8-10については、VR-SNSユーザーは購入したアバターをデフォルトのデザインのまま使用することはまれであり、ほぼ必ず何らかのオリジナルの改変が加えられている。ユーザーそれぞれがアバターやハンドルネームに対して強いアイデンティティーを持っており、そのアイデンティティーを守るような施策を取ることが望ましい。

> ◎メタバースのユーザーは、アバターを自らの分身とし、アバターの姿を自らの姿として活動しており、これに強い愛着を抱くユーザーも少なくないと言われる。これらユーザーの多くは、実名を用いず、そのアバターのキャラクター設定に沿って活動し、外部の者からは、「中の人」が誰かわからないことが、一般的となっている。
> ◎こうしたアバターに向けた誹謗中傷等の事案も生じているところ、これらアバターに関する人格権的な保護がどこまで及ぶのか、「中の人」への誹謗中傷等と同様に、違法行為・不法行為に位置付けることが可能か等について、議論となっている。

P45 2-11については、キャラクター性の強いアバターに対する誹謗中傷等に準じる行為が直ちに違法行為となるかは、議論の余地があると認識している。実際の人権侵害に近い被害を救済すると同時に、表現の自由を不当に制限しないことを両立する措置が必要である。

> モーションデータを配信する行為に対しては、実演家たるアバター操作者の送信可能化権が及ぶものと解され、当該行為を無断で行えば、権利制限に当たる場合等を除き、著作隣接権の侵害に当たり得ることとなる。

P49 24-26に関連する事例として、VR-SNSにおいてMMD(MikuMikuDance)などのクリエイターが作成した自動のモーションデータを、クリエイターの許可を得ずに自らのワールドに設置し、ワールド参加者のアバターを踊らせることができるワールドの存在が確認されている。こういった、著作隣接権侵害事例については、適切な対応が必要である。

> ◯ アバターの身体的行動による加害行為として、メタバースの空間内でも、痴漢、つきまとい、のぞき等のハラスメント行為や、殴る等の暴力行為が行われるなどの問題がある。
> 〇 アクセス権限のない領域への侵入が制限されるメタバース上でののぞき行為等は、不法侵入を伴わず、共有空間で行われるものが中心となる。
また、殴る等の暴力行為は、加害者の手が被害者の身体に触れる寸前で止まったり、被害者の身体を貫通したりするなどして、相手のアバターの身体に実際のダメージを与えることはないのが通常だが、没入感の強いメタバースでは、それらの行為による感覚的・精神的苦痛が、現実空間以上に強く感じられることとなりやすいことも指摘される。

P54 18-27~P55の表については、「アバターの身体的行動に係る問題事案」の4項目の法令規制等がメタバースへ適用されていないことは課題になる可能性があるが、あくまで技術面やソフトローによる解決が優先される事が望ましい。しかしながら今後、VR感度という体質に頼らないフォースフィードバック技術や、触覚を身体もしくは神経信号として直接感覚を得られるなど、さらなる没入感の向上が予想されるため、技術の進歩に合わせて適切な対策を検討していくことが望ましい。

> 〇 特に、最近の動向としては、メタバースの相互運用性の実現を目指す国際的なフォーラム組織における標準化の議論が行われているほか、デジタル市場法(the Digital Markets Act ; DMA)及びデジタルサービス法(the Digital Services 1 Act ; DSA)を導入した欧州が、さらに、メタバースなどの新しいトレンドを追う動きを見せるなどの状況があり、留意が必要である。

P63 39-40〜P64 1-3については、デジタルサービス法はオンラインプラットフォームに関する規定も定められており、これにVR-SNSなどが該当するため、トレンドを追う動きがあるものと考えられる。特にデジタルサービス法などは、表現内容についての規定をしており、欧州基準の厳しい表現規制が、国境の無いメタバース空間に対して一律に適用されることは、我が国のみならず諸外国のメタバース空間における表現を制限される可能性がある。

これらの表現規制は、本書で掲げる「目指すべきメタバースの理念」である、「自由な活動の場としてのメタバース」「安心・安全に過ごせるメタバース」「創造性が開かれるメタバース」などと、相反する可能性が高い。我が国としては、引き続きメタバース空間における理念を体現するために、国際社会におけるデファクトスタンダード作りの議論をリードしていくべきである。

その他提言

2023年4月に行われた会合の、内閣府知的財産戦略推進事務局作成の資料9-3 P2において、メタバースとは「コンピュータ上に仮想空間を作る試み、VR-SNS、オンラインゲーム、Eコマースなどの要素を取り入れたもの」と説明されている。メタバースにはコミュニケーションを重視したものと、ゲーム性の強いものが存在する。本原案では主として前者に重点が置かれて議論がなされているが、後者はその性質から、P55の≪現実問題と同様に生じる問題≫を一律に適用する事はゲームとしての面白さを失うことになりかねないため、後者についてはそのメタバース空間が持つ特性に応じて個別に議論することも検討されたい。

また、本書の趣旨とは若干異なるが、日本人の個人のクリエイターが制作したアバターを利用した海外のVTuberが人気になり、フィギュア化の案件が持ち上がったものの、海外事業者とのコミュニケーションや海外の法に対する理解不足から案件化できなかった事例が寄せられている。メタバースに限らず、UGC時代においては、個人のクリエイターが活躍することが多くなり、事業化、特に海外展開を行う際の支援を国として行うことは重要である。

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まんぼう&ざしき
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