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【都知事選向け特別公開】おいでよ傍聴! 東京都政傍聴日記 5

AFEEマガジン第12号より転載。
2020年7月の東京都知事選挙を前に、ここ数年の不健全図書指定の動きを知ってもらうため、AFEEマガジン連載記事「おいでよ傍聴!東京都政傍聴日記」をWEB公開します。


寄稿:南條ななみ

2019年(平成31年)4月、東京都の青少年・治安対策本部は「都民安全推進本部」と名称を改めました。不健全図書(青少年・18歳未満の人に見せないことにする本)の指定を決める会議・東京都青少年健全育成審議会は都民安全推進本部で開催されます。

2016年(平成28年)の秋から、東京都が開催する審議会は原則公開する方針となり、青少年健全育成審議会も11月から傍聴できるようになりました。この動きがあったのは、小池都政のスタート時「徹底的な情報公開」を掲げていたからです。ただし、傍聴できるのは審議会の冒頭部分のみでした。その後、2017年(平成29年)5月からは審議会の最後の部分も傍聴できるようになりました。冒頭の約5分と最後の約2分、合計約7分傍聴できます。不健全図書や優良映画の審議をしている時間は非公開で傍聴できないので、傍聴人は待機場所で待つことになります。

傍聴の定員は初めは10名でしたが、2018年5月に16名に増えました。

さて、なぜ傍聴する必要があるのか。いま一度考えてみます。

2010年(平成22年)に東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正、いわゆる「非実在青少年」騒動がありました。「非実在青少年」の条例改正案は2010年6月の東京都議会で否決されましたが、修正した条例改正案が同年12月に可決、成立しました。

結局、条例の何が改正されたのかというと、それまで不健全図書に指定されるのは「著しく性的感情を刺激し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」とされる図書でした。この基準は東京都青少年の健全な育成に関する条例の第8条1項1号に該当する基準なので「1号基準」もしくは「旧基準」と呼ばれています。そして2010年12月の改正で新しく「著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」という基準ができたのです。こちらは条例第8条1項2号に該当する基準なので「2号基準」もしくは「新基準」と呼ばれています。

条例にはそのように書かれてあり、実際にどのように仕事をするか定めた「施行規則」(正式には「東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則」)第15条の2に「新基準」について次のようにあります。

「条例第8条第1項第2号の東京都規則で定める基準は、次の各号のいずれかに該当するものであることとする。」

「一 性交又は性交類似行為(以下「性交等」という。)のうち次に掲げる行為を、当該行為が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、又は当該行為の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、閲覧し、又は観覧する青少年の当該行為に対する抵抗感を著しく減ずるものであること。

イ 刑法(明治40年法律第45号)第176条から第179条まで、第181条又は第241条の規定の違反行為

ロ 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第4条の規定の違反行為

ハ 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第34条第1項第6号の規定に違反する行為

ニ 条例第18条の6の規定に違反する行為」

「二 近親者間(民法(明治29年法律第89号)第734条から第736条までの規定により、婚姻をすることができない者の間をいう。)における性交等を、当該性交等が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、又は当該性交等の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、閲覧し、又は観覧する青少年の当該性交等に対する抵抗感を著しく減ずるものであること。」

(以下略)

簡単にいえば、強制性交や児童淫行といった犯罪(一のイロハニ)と、近親相姦(二)を社会的に認められていることであるかのように描いている作品は「新基準」に触れる、といっているのです。

この改正後、「新基準」が使われたことは3回あります。

行政がおかしな動きをしたら、声をあげることは大事です。普段から会議を傍聴し、行政を監視することで、為政者が権力を濫用したり、必要以上に規制を強めたりする動きを抑制することにつながります。

もしも、誰も傍聴に行かなければ「条例改正の時だけあんなに騒いだけれど、本当はみんな規制に関心がないじゃないか」と見なされて、どんどん規制が強まるおそれがあります。傍聴に行くのと行かないのとでは大違いなのです。

18歳以上の人は東京都青少年健全育成審議会を傍聴できます。傍聴の行き方はAFEEのサイト内ブログ(https://afee.jp/2017/05/29/7777/)に掲載されています。参考にしてください。

というわけで、東京都の審議会などを傍聴し、都議会中継を視聴しました。AFEEマガジンに寄稿するので、エンターテイメント表現の規制に関連するかもしれない話題について書こうと思います。

なお、この記事の内容は南條ななみ個人の意見であり、AFEEの総意ではないことをあらかじめお断りします。

AFEEマガジン10号では2018年11月までの傍聴日記を書きましたので、その続きから。

ここから傍聴日記です。

◆平成30年(2018年)12月10日(月)第702回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、6名。

審議時間、64分。

(この記事では、傍聴できなかった時間、つまり傍聴人が待合スペースで待機させられていた時間を「審議時間」とする。厳密ではない。1〜2分の誤差はあるものとしてご容赦願いたい。)

優良映画、2本推奨。

不健全図書、1誌指定。

〈推奨映画〉

ねことじいちゃん

そらのレストラン

〈指定図書〉

ヨガりすぎておかしくなりそう

★「ヨガりすぎておかしくなりそう」はコミックスとドラマCDが同時発売になったBL作品。コミックスが不健全図書に指定された。

◆平成31年(2019年)1月15日(火)第703回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、5名。

審議時間、26分。

委員19名中16名出席。半数以上の委員の出席で会議を開くことができる。3名欠席。欠席は早坂委員、斉藤委員、鈴木委員。

2誌の審議に26分とは、ずいぶん短い。今回は映画の諮問がなく、早坂都議や斉藤都議といった意見を言う委員が欠席だったので、そのぶん早く終わってしまったのだろうか。

この日、私は「東京都青少年健全育成審議会、奥澤都議と斉藤都議は解任されてないです。」とツイートしている。

審議会に先立つ1月7日、奥澤高広都議と斉藤れいな都議は都民ファーストの会を離党した。同じく都民ファーストの会を離党した森沢恭子都議とともに3人で会派「無所属東京みらい」として活動することになった。

このニュースにAFEEの坂井崇俊編集長が、奥澤都議と斉藤都議は離党したから東京都青少年健全育成審議会の委員を解任されるはずだ、と慌てた。AFEEの坂井編集長は国会で仕事をしていたことがある。私は、国会では離党するとそうなるのかもしれないが、東京都の場合は違うのではないのではないか、と思いながら、傍聴した際に審議会委員名簿を確認し、ツイートで報告した次第。

あとで聞いたら、国会では委員の仕事は会期ごとにすべて変わるし、離党しても変わるのだそうだ(意訳)。奥澤委員、斉藤委員の会派離党の件で、国会と地方議会では仕組みが全く違うということを知り、印象に残った。

不健全図書、2誌指定。

〈指定図書〉

はごろもさんっ、抱かせてください!

理解不能クソキューティ

★2誌ともBL作品。

★「理解不能クソキューティ」の発売を記念して1月17日(木)〜2月6日(水)、コミコミスタジオ町田にてコラボイベント「キューティカフェ」が開催された。また、同じ会場で1月26日(土)に作者おわるさんのサイン会が開催され、盛況に終わった模様。

◆2月12日(火)第704回東京都青少年健全育

成審議会

傍聴人、3名。

審議時間、51分。

欠席は天日隆彦会長代理、斉藤委員、副島委員。見えにくかったので、もし間違っていたらすみません。

欠席の委員がなぜ見えにくかったかというと、傍聴の前に職員さんから「狭くなっているため手前に座ってください」と言われて、会議室の入口を入ってすぐの席に座ったところ、そこからだと会議室全体が見えにくかったため。

傍聴人3名だったから入口近くの席に全員で座れたけど、傍聴人が大勢だったらどうするつもりだったんだろう。

そして、私の情報がもし間違っていたら謝罪はするけれど、傍聴人が毎回いちいちチェックしなくてすむように、出席の委員の氏名を毎回公開するシステムにしてほしい。以前、メールで要望したのだが、なぜか改善してもらえていない。

不健全図書、2誌指定。

〈指定図書〉

恋獄のミレニアム

極道ポルノ

★2誌ともBL作品。「恋獄のミレニアム」は神父と悪魔の物語。独特の世界観に審議会の委員からも「初めて、この会に出て、おもしろいと思った」(東京都福祉保健局職員・西尾委員)との感想も議事録に出てくる。「極道ポルノ」ともども、ストーリー性が高い、と審議会委員からの評価が高めだった。でも指定されたけど。

◆3月11日(月)第705回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、7名。

審議時間、72分。

出席の委員は18名。1名欠席。警視庁生活安全部少年非行対策官・奥友委員が新しく委員に就任した。

優良映画、1本推奨。

不健全図書、2誌指定。

〈推奨映画〉

ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ

〈指定図書〉

兄貴のケツにお金をもじ込んでやった結果

桜田先輩改造計画

★推奨映画は「ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ」だと聞いて、不健全図書指定している東京都は、ヒトラーがピカソにしたのと同じことを自分達がしている自覚がないらしい、と傍聴人同士でお茶を飲みながら話した。

★BL「兄貴のケツにお金をもじ込んでやった結果」は血のつながらない兄弟の話。何というか浪花節、お涙ちょうだい物で、タイトルと中身のギャップが面白い。これを不健全指定してどうする……、中身をちゃんと読んだのか、まさかタイトルだけ見て指定していないだろうな? と疑問。これが委縮につながれば、目を引くようなキャッチーなタイトルをつけにくくなる。エンターテイメントのコンテンツとしてそれはどうなのか。

★BLコメディ「桜田先輩改造計画」は人気作で9月にドラマCDが発売され、11月にはフランス版、台湾版も発行された。というか、「桜田先輩改造計画」のおかげで私は日本の商業BLコミックがヨーロッパや台湾に輸出されてることを初めて知り、大変勉強になった。ありがとうございます。

◆4月15日(月)第706回東京都青少年健全育成審議会

青少年・治安対策本部は都民安全推進本部に名前が変わった。

審議会開催日は当初4月8日(月)の予定だったが、「組織改正の都合」との理由で一週間ずれて4月15日(月)に変更となった。ちなみに統一地方選挙の最中である。

欠席した委員は早坂委員、宮原委員、新任の山本委員、新任の小澤委員の4名。19名中15名出席で開会に支障はないとのこと。

傍聴人、2名。

審議時間、33分。

不健全図書、1誌指定。

〈指定図書〉

性の劇薬

★「性の劇薬」はBL作品。巻末の特別描き下ろしマンガでは主人公の2人がHIV、B型肝炎、C型肝炎の検査を受ける展開に。「検査で出ないウインドウ期があるため生で性交渉をした3ヶ月後の検査が望ましい」と注釈がついている。この本一冊まるごと不健全図書に指定し18歳未満の人に見せなくするということは、このような大事な情報に触れる機会を行政が奪うということでもある。18歳になってからこの本を読んで、この情報をもっと早く知っていれば助かったかもしれないのに、東京都に知る機会を奪われた、と思う人がいるかもしれない。その時、東京都は青少年を守って感謝されるどころか、青少年を守らなかったことでうらまれるだろう。

青少年から情報を奪うことは、青少年を安全から遠ざけることであり、保護しているとはとても言えない。その覚悟をもって不健全図書の指定をおこなっているのだろうか。

「性の劇薬」は実写映画化決定が発表されている(映画はR18指定)。映画化決定および映画化決定を記念しての作者水田ゆきさんサイン入り単行本プレゼント企画が4月13日(土)に発表された。その直後の4月18日(木)、東京都の不健全図書指定が発表された。映画「性の劇薬」は2020年2月14日より順次公開予定。

◆令和元年5月13日(月)第707回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、5名。

審議時間、48分。

冒頭、事務局の司会の人が、出席している委員の人数を「16名」とアナウンスした。審議会開始から数分後、奥澤都議と斉藤都議が入室(あとで斉藤都議に聞いたら、視察が長引いて遅れたとのこと)。遅れることは電話で連絡したとのことだが、事務局には伝わらなかったのだろうか。

というわけで、委員18名出席、1名欠席で開催された(欠席は奥友委員)。

映画2本と図書の審議で48分とは、これまでの審議会からすると早く終わったなという印象。

斉藤れいな都議のブログには「不健全図書と優良映画の諮問が行われました。第707回青少年健全育成審議会です。」と題した記事に次のような記載がある(追記訂正されたため記事の日付は5月17日になっている)。

「この最終的に審議会へとあげられるものに、そもそも20代30代以上の女性のファンが多いとされるBLものというジャンルのものが多いのですが、審議委員にとっては青少年の健全育成に資するものかどうかという視点で判断することは難しいのではという意見も聞かれることがあります。

大人の女性向けに書かれ販売されているコミックを、青少年の健全な育成に資するものかどうかと審議すること自体がやや、混乱を生む、わかりにくいものにもなりがちという意見もありますが、あくまでも判断の指標は『健全育成条例に明記されている基準』となりますので、コミックのストーリー性やその作者の意図などはこの際判断基準とはなりません。いくらストーリー性があり、その内容が健全でも、あまりにも描写が露骨で卑猥感があるものは全て区分陳列の対象となります。」

優良映画、2本推奨。

不健全図書、1誌指定。

〈推奨映画〉

ある町の高い煙突

泣くな赤鬼

〈指定図書〉

ノンケ童貞の俺がビッチ上司に食われた話

★BL「ノンケ童貞の俺がビッチ上司に食われた話」の主人公はゴムアレルギーのためコンドームが使えずセックスができないまま25歳で童貞という設定。表題作のほか「ドスケベ睡眠ハメスクワット」ほかが収録されている。カバーをはずした表紙の漫画に「条例」の一言があり、条例が出版社を委縮させているさまを見るようで、思わず苦笑してしまう。

◆6月10日(月)第708回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、3名で開会。閉会時4名。

審議時間、67分。

この日、私は体調がすぐれず遅れて行ったため、冒頭は傍聴していない。欠席の委員の情報は、ほかの傍聴人に教えてもらった。欠席の委員は斉藤委員、奥友委員、森山委員の3名とのこと。

見学なのか立ち会いの職員さんが、傍聴人席の向かいに4名座っているのが見えた。

優良映画、2本推奨。

不健全図書、1誌指定。

〈推奨映画〉

北の果ての小さな村で

風をつかまえた少年

〈指定図書〉

愛欲ラッキーホール

★「愛欲ラッキーホール」はBLだが自主規制団体からの意見聴取結果は「指定該当6、保留2、指定非該当7」と、指定非該当の意見がいつもよりやや多めだった。いつものBLが少女漫画に近い絵柄であるのに対して、「愛欲ラッキーホール」は少年漫画に近い絵柄(この説明が適切かどうか分からないが)。絵柄によってひわいに見えるか、見えないかの結果に差が出るということは、自主規制業界団体が少女漫画を見慣れておらず少年漫画は見慣れていると仮定したうえでの話だが、見慣れた絵柄ならひわいに見えることなく平気で読めるが、見慣れていない絵柄ではひわいに見えてしまうのだろうか。ひわいか、ひわいではないかの判断は全く見る者の主観に委ねられている。

自主規制業界団体の者が絵柄に左右されて作品の内容を客観的に判断できないのだとしたら、ある意味で情けないが、人によって得意、不得意な分野はそれぞれ違うのだから、業界団体の意見が正しいなどとはけっして言えない。

出版業界に身を置く者がなぜこんな感動する作品を、感受性の豊かな年代の若者から奪うのかと不思議だったが、「BLを読むのが得意ではなかったから、それらの作品の良さが理解できなかった、ひわいに見えてしまった」そんな事情だったのだろうか。

◆7月8日(月)第709回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人、2名。

審議時間、27分。

出席は19人中14名。欠席は石川委員、天日会長代理、小澤委員、奥友委員、森山委員の5名。

議事録にはI委員と若年支援課長との次のようなやりとりがある。

「○I委員 二つとも指定該当でよろしいかと思います。

 ちょっと聞きたいのですが、近親者というのがどういったときに当てはまるのか。今回、先ほどもJ委員からお話があった、これが何で近親者に当たるのか、当たらないのというのが、これが血のつながりがないからなのか、同性だからなのか、ちょっとその辺がよくわからなかったんですけど。

○若年支援課長 血のつながりがないためという解釈で考えてございます。

○I委員 血のつながりがないと、近親者には当たらないという。

○若年支援課長 いわゆる血のつながりがない義兄弟という関係は、新基準でいうところの近親者に当たらないという解釈です。

○I委員 では、例えば、これが今、3人登場人物がいますけど、実兄弟もいますよね。実兄弟が性的な、挿入するようなところがあったら、これは近親相姦になるということですか。

○若年支援課長 該当する可能性があるということです。

○I委員 わかりました。すみません、ちょっとそれだけわからなかったもので、ありがとうございます。」

民法第734条に「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。」とあり、実のきょうだいは三親等内なので結婚できない、ただし、養子と養親の子は結婚できるということになる。たとえば親が二人とも子連れ結婚をして、連れ子同士がきょうだいになるというのが物語の設定でよくあるが、そのような血のつながらないきょうだいは現実の世界の法律上、結婚ができる。現在ではまだ婚姻は男女のカップルにしか認められていないが、議論中であり、将来は同性間でも結婚が認められる可能性があることを付記する。

若年支援課長が「いわゆる血のつながりがない義兄弟という関係は、新基準でいうところの近親者に当たらないという解釈です。」と答えているが、この解釈は妥当だろうと考える。

それにしても事務局は、質問すれば教えるが、質問しなかったら教えないというやりくちでである。I委員が質問する前に発言の順番がきたJ委員とE委員は、断定的に「近親相姦」だと言っている。I委員とのやりとりで事務局が「近親相姦ではない」と説明していなかったら、そのあとに発言する委員達も皆、近親相姦だから指定と言っていたかもしれないのだ。

ただ、そもそもフィクションの登場人物が近親相姦かどうかで議論する意味が分からない、なぜ近親相姦の話を読むのがことさらにいけないのか、条例の妥当性を議論し直してほしい、という意見もあり、それも至極もっともだ。続き物の1巻で近親相姦をにおわせている作品があるとしても、最後まで読まなければ本当はどうなのか分からない。設定で不健全かどうか判断しようとするのは無理がある。

不健全図書、2誌指定。

〈指定図書〉

ごちそうさま、ヴァージンチェリー

PLAYMATE

★2誌ともBL。「ごちそうさま、ヴァージンチェリー」は実の兄・弟と、親の結婚で兄弟になった血のつながらない兄弟の3人の話。血のつながらない兄弟という題材はフィクションではありがちとは思うが、3月の指定に続いて今年2冊目である。

◆8月5日(月)第710回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人2名で開会、閉会時3名。

審議時間、55分。

出席の委員は16名、欠席の委員は3名(麻生委員、奥澤委員、奥友委員)

審議会委員の斉藤れいな都議はこの日のブログ記事「第710回東京都青少年健全育成審議会でした」の中で次のように書いている。

「今回不健全図書類の指定については、出席していた委員から、事務局に対して、疑問に感じているような部分も発言がありました。

不健全図書類については、毎月120冊以上を事務局が購入し、そのうち青少年健全育成条例に記載のある、極めて卑猥感の強いと思われる部分などに事務局が付箋を貼った状態で審議会の委員の前に本が届けられます。

この、付箋を貼る基準のようなものについて、確認するようなくだりがありました。

条例の施行規則には例えば、「全裸若しくは半裸またはこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、または人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。」という記述をはじめとして、十数項目にわたり「青少年の健全な育成を阻害すると思われる」要素が基準として並んでいます。

事務局の貼る付箋の基準は、この条例の施行規則の基準に即したものでなければなりません。

この基準に類似するものや、この基準に当てはまらないけれども当該箇所として指定の理由とされるページが多数あっては問題です。

事務局からは、「あくまでも付箋は目安」という説明がありました。

目安、ということで、指定確定部分ではないということです。あくまでも判断はそれぞれの委員に委ねられている、ということを確認したので、改めて襟を正して審議を務めていきたいと思います。」

議事録には、次のようなくだりがある。A委員からの指摘と、事務局は都民安全推進本部・若年支援課長からの補足説明。

「○A委員 (略)それから、付箋がたくさんついているんですけれど、その中でそれほどのところはないのではないか、というようなところが、正直言ってあるんです。」

「○若年支援課長 2点ほど補足させていただいてよろしいでしょうか。(略)次に、付箋の貼ってある箇所について、お話がございましたけれども、基本的に付箋が貼ってあるから問題だとか、ないから問題がないというものではなく、あくまで目安として貼らせていただいております。どういう目安かというと、性交、性交類似行為の場面で下半身が描かれているページに貼らせていただいております。あとは、器具を使用している場面、あからさまな性器描写がある箇所にも貼ってございます。性交場面などで、そこまでではないのではないかというようなところにも貼らせてはいただいておりますが、ご覧いただく場所の目安でございますので、そこを見て基準に照らしてどうなのか、というご判断をいただければというものでございます。」

つまり、こういうことだ。事務局が性交場面のページに付箋を貼った見本誌を用意してある。中にはそれほどの描写ではないところもある。大したことはないのか、あるのかは、委員が判断してください、と言うのだ。

審議会の委員は付箋の貼った本を読んで審議するわけだが、付箋の意味を知らないで読むと、「付箋がこんなにたくさん貼ってある。基準に触れる箇所がこんなにたくさんあるのか。これは指定すべき図書だ。」と思い込んでしてしまうおそれがある。

事務局は付箋の数に惑わされないようにという説明を毎回の審議会でするべきである。説明をしないのは、付箋の数に惑わされた委員の「指定該当」の言葉を誘導するためではないのか。そう疑われても仕方がない。

それほどではない描写にも付箋を貼っておきながら、付箋のページが該当箇所と思わせていたのであれば、とんでもないことだ。会議資料「諮問図書類及び指定基準該当箇所一覧」の「該当箇所」には「全編大部分」と書かれるが、「全編大部分」というのは嘘だったのではないか? 少なくとも、審議会の委員に大いに誤解を与えていたのは事実である。

優良映画、2本推奨。

不健全図書、1誌指定。

〈推奨映画〉

初恋ロスタイム

パリに見出されたピアニスト

〈指定図書〉

お兄ちゃんは女装がお好き!?

★BL。「お兄ちゃんは女装がお好き!?」は血のつながらない兄弟の話。偶然なのか、2か月連続で血のつながらない兄弟の話が指定された。今年3冊目である。審議会の委員は指定該当の理由を「近親相姦」を連想させるなどと言っているが、連想するのは連想している者の自由である。それを作品のせいにして取り締まるという理屈はおかしい。だが、どんな無茶な意見であっても発言したらそれだけで尊重されてしまうのが審議会である。

◆9月9日(月) 東京都議会 令和元年第3回定例会 本会議

代表質問。西沢けいた都議(都議会立憲民主党・民主クラブ)が表現の自由について質問した。

以下、議事録より。

「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例が施行されて半年ほどたちますが、いまだにヘイトスピーチなどの差別が散見されます。

例えば一件の審査で年単位で時間がかかり、適用がほとんどなされないことなどがあると、実質的な抑止効果などが乏しくなることも考えられます。条例施行から半年ほどたちますが、審査会の実施状況や条例の申し立て件数などの適用の実績を問うとともに、今後の運用、適用のめどがどれくらいか伺います。

一方で、表現の自由にも配慮しなければなりません。

特に、SNSなどの拡散力のあるインターネットでの創作活動、漫画やアニメなどの創作活動を萎縮させてしまわないよう、都が率先して表現活動に対して啓発していくべきと申し上げておきます。

平成二十二年の青少年健全育成条例の改正の際には、非実在青少年などの概念が曖昧で、大きな反響があり、表現者からの大きな心配がありました。こうしたことから、差別解消や青少年保護には努めなければならない一方、表現の自由への心配を払拭しなければなりません。

昨今、表現の不自由展の中止など、自治体の首長が表現の自由に対しての考えを問われるケースが起きています。政治家としての知事の表現の自由への配慮をどのように考えるのか、見解を伺います。」

小池百合子東京都知事、答弁。

「表現の自由への配慮についてのご質問がございました。

表現の自由というのは民主主義を支える根幹であるということは言うまでもないと思います。

また、漫画やアニメを初めとして、我が国が世界に誇る文化がございますが、それが発展を続けていくための基盤は自由な創作活動と考えます。憲法で保障されている表現の自由は守らなければならないと考えます。

一方で、判例もございますが、表現の自由は無制約ではございません。基本的な人権であります表現の自由には最大限配慮しつつ、ご指摘のような差別解消であるとか、青少年保護などの観点から議論を深めていくことは重要とも考えております。」

総務局長、答弁。

「いわゆるヘイトスピーチ解消に向けた取り組みについてでございますが、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例を全面施行した四月以降、複数の事案について情報提供を受けております。これらの事案につきましては、条例に基づいて設置した審査会において既に二回の議論を行い、引き続き、条例の規定に基づく措置等について慎重に検討しているところでございます。

今後も、表現の自由など、憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないよう、公正、公平かつ中立的に条例の運用に努め、ヘイトスピーチの解消に向けて取り組んでまいります。」

審査会は非公開のため何について審査されたのか分からなかったが、これ以降、東京都は審査会がヘイトスピーチと判断した案件を「人権尊重の理念の実現を目指す条例 表現活動概要等公表」として公表している。

◆9月13日(金)第711回東京都青少年健全育成審議会

事務局の都合により開催日程変更。当初予定の9月9日(月)は東京都議会本会議の開催日程と重なったためと思われる。

傍聴人、7名。

審議時間、28分。

委員の交代、警視庁から来ている奥友委員に代わり、今回から警視庁の川西委員が就任。

出席の委員15名。欠席の委員4名(石川委員、宮原委員、川西委員、内田委員)。

今回の資料で、コンビニ成人雑誌についての報告の中、協力員からの報告の集計結果は「類似図書類(成年向けと思われる図書類)」を売っている店舗85、そのうち区分されておらず不適切だった店舗が2。

コンビニ大手3社が類似図書類の取り扱いを8月末で終了したので、来月あたりで実質最後の報告となり、数字がほぼ0になると予想する。

今回をもって奥澤高広都議、斉藤れいな都議は審議会委員の任期終了となった。

この日、斉藤れいな都議は「青少年健全育成審議会、お世話になりました。」と題してブログを更新している。

「さて、本日は第711回青少年健全育成審議会がありました。

今回をもって、私と奥澤都議は委員の勤めを終了させていただくこととなっております。

関係課職員の皆様、また委員の皆様には大変これまでお世話になりました。

都議となり初めて出席させていただいた審議会でもあり、数々学ばせていただくことがありました。

最後の審議会ということもあり、自分は委員として『個人的な感覚』を審議の根拠とすることに少しの懸念があることをお伝えさせていただきました。

この審議会で審議している優良映画の選定、また不健全図書の指定はそれぞれに基準となる条例があり、その条例の施行規則があります。

ただし、実際には審議は対象がこの審議会に上がってきた段階において、その対象は本審議会に上がってこなかった他の検討対象とされている図書と比較される術はもっておらず、委員にとっては『これは条例に照らし合わせて施行規則に沿うものであるか』という客観的な事実を他と比較して行うというよりも、その図書単体と向き合い感じた印象や衝撃を念頭に『これを子どもたちに見せたいか否か』という主観をベースとして審議を行うことになってしまう危険性もあるのではないかと感じる次第です。

人としての個人的主観と委員として求められる客観の行き来をする中で、あくまでも感覚論や印象論ではなく正当かつ明確な基準において審議が行われることを希望する想いを胸に、本日の審議を行いました。

私のような、若輩者に委員として意見を述べさせていただき感謝の想いでいっぱいです。

最後まで、ご指導ご教示をくださり誠にありがとうございました。

今後も、1都議会議員として、また1表現者として、1社会人として、本審議会の動向を注視いて参りたいと考えます。」

不健全図書、2誌指定。

〈指定図書〉

fill the cream donut

彼女と僕のいえない秘密

★「彼女と僕のいえない秘密」は、BLではない作品では10か月ぶりに指定された作品。

◆10月15日(火)第712回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人5名。

審議時間60分。

傍聴5名でスタート。そのあと審議中に1名到着、1名帰ったので、最後も5名で傍聴した。傍聴に来た人は実動6名。

出席委員は19名、久々の全員出席。

栗下善行都議、山田ひろし都議が新しく委員に就任した。

審議会の待ち時間に傍聴人同士で情報交換。少年誌の編集部に水着グラビア反対の意見が手紙で届いているとの話から、「その手紙を送っている人達が、もし東京都に『この雑誌を指定して』と言ってきたら危ないのでは?」との意見があった。

私から「そういう要望は東京都によく来ていて、都は雑誌を買ってきて確認し『基準に達していないので対応しない』と判断しています」と伝えた。

なんなら私達も、東京都にお礼や励ましのメールでも送るといいのかもしれない。誰だって褒められたら嬉しいだろうし。

優良映画2本推奨。

不健全図書1誌指定。

〈推奨映画〉

だれもが愛しいチャンピオン

人生、ただいま修行中

〈指定図書〉

いくいく!淫魔ちゃん

★「いくいく!淫魔ちゃん」は性器はほぼ修正されている、というより描かれていない。股間の絵はあっても、省略技法をもちいて性器は描かれていないのだ。自主規制で全く輪郭線を描いておらず、攻キャラの性器が大きくて受キャラが驚くという場面ですら、漫画なのに絵で表すことを自粛して『マジででかい』とモノローグだけで説明している状態だ。指定を受けないように気をつけた、委縮した結果であろうと見てとれるが、この状態でも指定されるのであれば、もはや何をどう気をつければよいのか全くわからない。このような描写の漫画を不健全指定するということは、これまで条例や東京都の指導を受け入れて、応じてきた出版社、漫画家の態度を踏みにじる裏切り行為である。

◆11月11日(月)第713回東京都青少年健全育成審議会

傍聴人9名。

審議時間63分。

委員19名中16名が出席。欠席はのがみ委員、川西委員、内田委員の3名。

最初の5分間説明のあとの出来事。資料に類似図書を置いている店舗の数が34とあり、山了吉委員から、8月でコンビニ成人雑誌の販売は大手3社で終了したのに、まだ置いている店舗がこんなにあるのはどういう事情かと質問が出た。

事務局からは「あくまで10月報告分です」との説明。協力員が立ち入り調査をしたのは8月よりも前のものが含まれている可能性があるが、報告が10月に届いたものの集計ということだと思われる。

事務局は少し慌てていたように見えた。質問されると予想していれば、前もって回答を用意しておくはずだが、質問されるとは思っていなかったのではないか。

私もコンビニ成人雑誌に注目していた(コンビニ大手3社で販売していないので、数字がわずかでないとおかしい)ので、委員から質問が出て良かったと思った。

山委員から「次回もまだ売っているところがあるとすれば、なぜそんなにあるのか、理由が分かれば教えてください。」と念が押された。

優良映画1本推奨。

不健全図書2誌指定。

〈推奨映画〉

映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!

〈指定図書〉

ヴィーナスカント

俺の彼氏に開発されすぎて、困ってます。

★推奨映画のタイトルだが、申し訳ないが事務局の人の発音が明瞭でなく、傍聴していて最後の「フィーバー」しか聞き取れなかった。「映画 フィーバー 2019年」でネットで検索して出てきた映画がこれである。まさか、ひつじのショーンだったとは。全然聞き取れなかった。

ちなみに当日の私のメモには必死で書き留めた「にゅうこうフィーバー」と走り書きが残っている。それに事務局の人の発表が「優良映画、映画…」と聞こえ、私は「今、映画って二回言った?」と困惑したのだが、その記憶とも一致する。聞き取りが困難となると、傍聴で得られる情報が少なすぎる。

もちろん、何か不明な点があれば職員さんを呼び止めて質問すればよいのだが。しかし、傍聴人が退室しないと部屋が狭くて委員が出られないからという理由で「閉会後は速やかに退室してください」と言われているので、「早く会議室を出なくては」とつい焦ってしまう。

★「ヴィーナスカント」は今年2冊目となる男女エロ作品。

★BL作品「俺の彼氏に開発されすぎて、困ってます。」は作者の短編集。タイトルがすべてを物語っている。まごうかたなきエロマンガと言ってよいと思われる。性器全消し(白抜き)の修正が評価されて、自主規制団体からの聴き取り結果では、意外にも指定非該当の意見が15人中3、保留も1ついた。

◆11月28日(木) 東京都議会 経済・港湾委員会

栗下善行都議が産業労働局に対して質問。アニメツーリズム事業(費用対効果に課題あり)、東京ビッグサイトについて(オリンピック期間中に会場が使えず中小企業が経済的打撃を受ける問題や、空調の整備について)などにも触れた。

[おわりに]

8月末でコンビニ大手3社でコンビニ成人雑誌の取り扱いが終了しました。

コンビニ成人雑誌といえば、千葉市青少年問題協議会(年に一度、夏に開催される)の29年度、30年度と二回分の議事録が、なかなか公開されていなかったことは、AFEEマガジン10号の「おいでよ傍聴! 東京都政傍聴日記4」に書いたとおりです。今年、令和1年5月17日(金)に私がツイッターで「千葉市青少年問題協議会って、議事録の更新が2年間ストップしてるんだけど、情報開示請求しないと出てこないのかなあ。」などと投稿したところ、そのツイートを引用リツイートで千葉市長に質問してくれた人がいて、そのおかげなのか5月23日(木)に千葉市のホームページに議事録が掲載されました。昨年、平成30年8月22日(水)に電話で問い合わせても効果がなかったのに、と思うと、ツイッターの威力はすごいですね。ただ使いどころを間違えると怖いです。

令和元年度の千葉市青少年問題協議会は9月4日(水)にありました。コンビニ大手3社がコンビニ成人雑誌の取り扱いを終了する件を議題として報告されるのか、そうであれば傍聴しようかと思って、事前に電話で問い合わせました。コンビニ大手3社の件は議題として扱わないとの回答を得ました。なお、今年の千葉市青少年問題協議会の主な議題は18歳成人式とのことでした。18歳、19歳、20歳の人が一度に成人式を迎えるので大変なことになりますよね。学年で区切ると早生まれの17歳の人も参加するでしょうし。

さて、毎度東京ローカルの話で恐縮です。ローカルの話とはいえ、東京には出版社が集中しているため、東京の出版社が出した本が条例で規制されると全国の読者が買えなくなるという影響が出ます。

何度も言いますが、東京都の条例なので本来は東京都内にしか効力はないのです。それなのに東京都の条例で不健全図書に指定されたら、東京都以外の地域でもその本が買えなくなる現象が起きていますが、これは明らかにおかしいのです。声をあげていいのです。

ネットショップは条例の範囲外です。条例の効力がおよぶのは、あくまでも東京都内の店舗のみです。

審議会の議論の中身は議事録が公開されるまで情報公開が難しい、という問題を前回お伝えしました。

「東京都青少年健全育成審議会の運営等」という審議会のルールが書かれた資料を読むと、会議資料は審議会終了後およそ10日後、会議録は審議会終了後およそ1か月後と会議録等の公開時期を設定しています(現状では議事録が出るまで2〜3か月かかっています)。

それは議事録を整えるのにおよそ1か月かかるというだけのことです。それまで審議内容を秘密にするとはどこにも書いていません。それなのに、審議会の委員が「この情報は、まだ言ってはいけないのではないか」と委縮して、黙っているのです。こんな状態が行政の事業でまかりとおっていてよいのでしょうか。

今回の記事では指定された作品にまつわるエピソードをいくつか書きました。東京都が民間企業の自由な経済活動を圧力で制限しているのが分かると思います。

子供達はいつも大人達から言われます。「勉強しろ」「運動もしろ」「ゲームばかりするな。動画やスマホばかり見るな」と。そして「子供が読んでいい漫画は条例に基づいて決める、子供が自分で選んではいけない」と言われるのです。子供達はいつも努力や我慢ばかり強いられ、その上さらに息抜きや楽しみは奪われているとしたら、どこが「子供は守られている」といえるのでしょうか。受験勉強や部活動に耐え、息抜きに読む漫画が心の支えになっていたという体験談も聞きます。そういう子供達から楽しみを奪っている条例の妥当性が問われるのは当然です。

エロに興味がない子は読みませんし、読まなくていいのです。読めと言っているわけではありません。エロを読みたい子に何らかの事情でエロ情報を遮断する必要があるとすれば、個別に対応すべきだと考えます。条例で一律に社会をしばるのはおかしいです。

諮問図書の付箋をつけたページは東京都の基準にふれる該当箇所というわけではない、と説明がありました。その説明があるまでは、審議会の委員達は付箋が貼ってあるページが該当部分だと思い込まされていたことが判明しました。

たまたまなのかもしれませんが、血のつながらない兄弟の話が今年だけで3冊指定されました。新基準が近親相姦を肯定するような話を取り締まるといっているので、おそらくマンガ業界では実の兄弟がカップルの性交シーンは描けなくなったのでしょう。東京都はこの上、さらに血のつながらない兄弟の話まで取り締まろうとするのでしょうか。しかも委員が質問するまで、事務局は近親相姦にはあたらないと解釈している事実を黙っていました。

性器の描写を自粛している漫画を東京都が不健全図書に指定したことも不信感をもたらします。

今後、東京都青少年健全育成審議会がどうあるべきか、あくまでも私の個人的な考えですが、思いつくところを挙げていきます。

青少年健全育成審議会の目標を設定し、その目標を達成したら活動を終了してよいことになっていない点に問題があると、私は考えます。これは改善すべきです。

活動のひとつ、環境浄化活動ですが、東京都がどの程度浄化されればよいか、目標値を決めていないのが問題です。はっきりいって、ミニストップでコンビニ成人雑誌の取り扱いをやめ、コンビニ大手3社でやめ、東京五輪を目前にほとんどコンビニは浄化が達成されているのです。それなのに延々と調査をやめないのは、どの程度環境浄化を達成できたか、自分達の仕事の成果を評価すらしていないからです。だから、もう調査する必要がないことにも気づかないのです。

類似図書類(コンビニ成人雑誌)はコンビニ業界が独自に、それらの雑誌を18歳未満に売らないという自主規制をしているだけで、18禁の商品でもないし指定図書でもないのだから、本当は協力員が類似図書類を調査する必要はありませんでした。

それ以外にも、東京都青少年健全育成審議会の運営には納得のいかない点があります。

審議会の委員の構成は「業界に関係を有する者(3名以内)、青少年の保護者(3名以内)、学識経験を有する者(8名以内)、関係行政機関の職員(3名以内)、東京都の職員(3名以内)」と規定されています。

このうち「業界に関係を有する者」に日本フランチャイズチェーン協会から来ている委員がいますが、コンビニ関係者として在籍しています。コンビニはほとんど環境浄化が達成されていますので、もうそろそろこの委員は退いてもらっていいのではないかと思われます。

また「東京都の職員」の中には、都民安全推進本部の職員がいます。事務局と同じ部署の職員が審議会の委員として在籍していいわけがありません。身内なのだから、事務局が不健全図書として諮問する図書を審議できる立場ではありません。この委員は解任するべきです。3人以内という規定なので、2人でも構わないですし、この委員の代わりに生活文化局か産業労働局の職員が就任してもよいのではと思います。

「東京都青少年健全育成審議会運営要領」には「審議会は、原則としておおむね、月一回開催する。」という規定があります。

審議会を毎月開催するのは多すぎます。不健全図書を毎月ノルマのように指定するのも、だんだんと無理が生じてきているのではないかと感じます。

「東京都青少年健全育成審議会の運営等」あるいは「東京都青少年健全育成審議会運営要領」という審議会のルールを改定する機会は二年に一度あります。次の機会は2020年10月の審議会です。審議会の中でルールを話し合って決めます。その時には、皆さん、ぜひ傍聴に集まってください。傍聴する時間はいつもと違い、1時間程度におよぶかもしれませんので、そのつもりで来てください。

今年の夏、7月27日(土)・28日(日)、埼玉県大宮でSF大会が開催されましたが、私はマンガ論争主宰・永山薫さんに呼ばれて二日目の分科会「ボーイズラブはなぜ有害なのか?」に登壇者の一人として参加しました。分科会での不健全指定図書の話を聞いて東京都青少年健全育成審議会に関心を持ってくれた人が数名、実際に東京都青少年健全育成審議会の傍聴に足を運んでくれています。

また最近は、東京都に不健全図書として指定されたBL作品が名作ぞろいなので、有志で集まって指定BL読書会を開催するという動きも聞かれるようになりました。指定された作品の中身を実際に読んで、一人一人が考えることは大事です。そこまでいかなくても、作品を読むだけでもよいので、読書会は賛成です。

私の行動の動機は、地元の問題であることです。たとえば、もし大阪府で何か問題が起きて、自分は遠いところにいるから大阪には行けないと思えば、「だれか大阪の人、なんとかして!」と願うことでしょう。逆の立場で「自分は東京に行けない! だれか東京の人、なんとかして!」と思う人がいるだろうと思いました。それに加えて、私自身が「だれかやってほしい」ではなく、自分が関心があり、「調べたい」という気持ちが持てる時、行動に移せるような気がしています。

だから、私としては、東京都青少年健全育成審議会に注目してもらえることは、それはそれで嬉しいですが、できれば、いろんな地域の人がそれぞれ地元の問題の担当になってくれたら、こんなに助かる、心強いことはないと思います。

皆さんのご協力で毎月の審議会には傍聴の人が集まるようになりました。今後もより多くのかたに不健全図書、有害図書に関心を持っていただければ嬉しいです。

おいでよ傍聴!

東京都青少年健全育成審議会 傍聴の概要 平成30年〜令和元年(令和元年12月現在)

日付 会議名 傍聴人数 審議時間 答申内容
平成30年

12月10日(月)

第702回東京都青少年健全育成審議会 6名 64分 優良映画2本推奨

不健全図書1誌指定

平成31年

1月15日(火)

第703回東京都青少年健全育成審議会 5名 26分 不健全図書2誌指定
2月12日(火) 第704回東京都青少年健全育成審議会 3名 51分 不健全図書2誌指定
3月11日(月) 第705回東京都青少年健全育成審議会 7名 72分 優良映画1本推奨

不健全図書2誌指定

4月15日(月) 第706回東京都青少年健全育成審議会 2名 33分 不健全図書1誌指定
令和元年

5月13日(月)

第707回東京都青少年健全育成審議会 5名 48分 優良映画2本推奨

不健全図書1誌指定

6月10日(月) 第708回東京都青少年健全育成審議会 3名→4名 67分 優良映画2本推奨

不健全図書1誌指定

7月8日(月) 第709回東京都青少年健全育成審議会 2名 27分 不健全図書2誌指定
8月5日(月) 第710回東京都青少年健全育成審議会 2名→3名 55分 優良映画2本推奨

不健全図書1誌指定

9月13日(金) 第711回東京都青少年健全育成審議会 7名 28分 不健全図書2誌指定
10月15日(火) 第712回東京都青少年健全育成審議会 5名→5名

実動6名

60分 優良映画2本推奨

不健全図書1誌指定

11月11日(月) 第713回東京都青少年健全育成審議会 9名 63分 優良映画1本推奨

不健全図書2誌指定

12月9日(月) 第714回東京都青少年健全育成審議会 3名 25分 不健全図書1誌指定

以降の開催日程(予定)
令和2年1月14日(火)15:30~17:00 第715回東京都青少年健全育成審議会
令和2年2月10日(月)15:30~17:00 第716回東京都青少年健全育成審議会
令和2年3月9日(月)15:30~17:00 第717回東京都青少年健全育成審議会
原則、毎月第2月曜日に開催 ※日程は変更になる場合があります

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