声明文の意見収集

【会員のみ】香川県ネット・ゲーム依存症対策条例のパブコメ案について

1月23日に香川県より「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案」についてパブリックコメントを行う旨の発表がありました。AFEEでは消費者視点でのエンターテイメント表現の自由の観点から、意見募集に応じることとしました。

ついては、会員の皆さまに役員会案を以下に提示しますので2月3日月曜日19:00までに、皆さんの意見をコメント欄から記載頂ければと思います。頂いた意見を役員会で検討の上、最終的なパブリックコメントとして提出したいと考えていますので、ご協力よろしくお願い致します。

パブコメURL:https://www.pref.kagawa.lg.jp/content/dir1/dir1_1/dir1_1_1/plahfe200120143751.shtml

パブリック・コメントへの意見(編集長私案)

1.はじめに

私たちは、マンガ・アニメ・ゲームなどの表現の自由を守るための活動を行っているが、基本理念として「権利の主体としての青少年の自由」をうたっており、この観点からもパブリック・コメントに応募するものである。

まず、立場を申し上げれば、「ゲームやネットの依存症」になった児童および成人については、きちんと対策が取られるべきであるが、科学的に原因や対処法が確立していない今、一律な規制を課すことは、依存症と関係のない児童に対する権利の侵害となりえることから行うべきではないという立場である。その意味で、本条例全体において検討が不足している部分が多く、2月議会での拙速な提出は避けるべきである。

2.「ゲームやネットの依存症」の因果関係について

まず、本条例素案については、重大な論理的なエラーがあり、その点を指摘した上で各条例案文について個別に指摘したい。

まず、本条例の目的の「ネット・ゲーム依存に陥らないために必要な対策」についてである。現時点において、精神障害の予防に成功したという事例は存在せず、この目的を達成することは現時点で非常に難しいと指摘せざるを得ない。この前提に立てば、予防を行うより、依存症になった児童を探し出し、その時点で対策を施すことが現実的である。

また、検討会に提出された「スマートフォン等の利用時間と平均正答率の状況」であるが、成績とスマートフォン等(以下、「スマホ」という)の利用時間には相関はあるが、それは単に成績との関係であって、スマホの長時間利用が依存症の要因となるとのエビデンスとは論理的になり得ないものである。さらに言えば、勉強嫌いな子がスマホを触る時間が長いという逆の因果の可能性すら排除できない。つまるところ、本条例素案は目的達成を立脚するための立法事実に欠けている。

3.各条例案文について

第2条(定義)

一般論として、精神障害の3つの要件の一つとして除外診断(他の精神障害、疾患によって引き起こされたものを除く)がある。特に、子どものゲーム依存の背景にはうつ病(大うつ病性障害)、不安症、ADHD(注意欠如多動性障害)が主なものであるとの研究結果もある。

ゲーム障害の一部の症候的妥当性(本条令の定義では症候的妥当性も十分ではない)や社会職業的機能低下および臨床的苦痛といった表面上の事象のみを取扱うことで、根本原因である他の精神障害や疾患から目を逸らすことに繋がりかねず、問題の解決から遠のくこととなる。

こういったことから、治療までを行う可能性を含めて定義の中に除外診断を含めるべきである。

第5条(学校の責務)項の追加

第5条に「学校は依存症の相談を受けた場合、精神保健福祉センターなどの依存症相談窓口を紹介するなど適切な支援につなげるものとする。」を追加することが望ましい。

第6条(保護者の責務)2項

2項の文章について、前段「保護者は乳幼児期からの子どもと向き合う時間を大切にし~」と後段「~子どもがネット・ゲーム依存症にならないように努めなければならない」について、専門家でない親の義務として適当であるかという議論は残るものの、個別の文脈としては大きな問題があるものではない。しかしながら、条例上で一連の流れとして記載することで、あたかも、前段が子どものネット・ゲーム依存症に繋がるとの誤解を与えかねない。検討委員会の参考人・岡田尊司医師の資料にもあるとおり、愛着形成は依存症の対策として有効ではないとの指摘もある。

しかしながら、「パソコンや携帯電話がないと一時も落ち着かない(正確にゲーム障害と定義することはできないが、擬似的には近い内容)」と「親から虐待を受けた」との間に相関があるという調査結果もあり(内閣府「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」2010年)さらなる調査を行うことが妥当である。また、虐待や愛着障害については、親に努力義務を課すことよりも家庭のサポートを行うことが必要であり、条例の目的に沿った対策となっているかについても議論が必要である。

第8条(国との連携等)2項

eスポーツがあたかも依存症を誘発するかのような誤解を与える。必要な施策を講ずるよう求めることは第8条1項に含まれているので、この項は削除することが妥当である。

第8条(国との連携等)3項

第6条2項について書いたとおり、愛着形成は依存症との関係についてのエビデンスを求めることが先であり、この項は削除することが妥当である。

第11条(事業者の役割)2項

2項については、「2.「ゲームやネットの依存症」の因果関係について」で述べたように、ゲームやネットの依存症を予防することは困難である。その義務を事業者に対して課すことで、過度な萎縮に繋がりかねない。また、この項については、対象が18才未満の青少年に限定されておらず、大人に対しての表現が規制されることから、憲法21条の表現の自由に抵触しかねない条項である。

また、当然であるが、特に「著しく性的感情を刺激し、甚だしく粗暴性を助長し、又は射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等」が依存症を進行させるというエビデンスは知り得ない。このため、エビデンスが存在しないのであれば、この項は削除することが妥当である。

第11条(事業者の役割)3項

3項についても、特定電気通信役務提供者が、時間や時刻制限によるブロッキングを全国一律で行う可能性等もあり、保護法益に対して、他都道府県の子どもへの権利侵害が著しく上回ることから、この項も削除するべきである。

第18条(子どものスマートフォン使用等の制限)2項

今までに述べてきたことに加え、韓国では16才未満のネットゲームを制限する「ゲームシャットダウン制」を投入したが、インターネット中毒や睡眠時間への影響はなく、「シャットダウン政策は青少年のインターネット使用を削減出来なかったため政策立案者は異なる戦略をとるべき」との指摘もなされていることから、本項は目的に対する実効性も疑われ、むしろ逆効果となる可能性すらある。

また、数値を具体的に示し、基準として提示するからには何らかのエビデンスが必要であるが、こう言ったエビデンスは存在しない。また、親の教育権(教育の自由)を脅かす可能性や夜10時以降高校生がスマホで辞書を調べるといった事象まで制限され、子どもが学ぶ権利やネットリテラシーを深める為の阻害要因となりかねないことから、本項は削除するべきである。

第18条(子どものスマートフォン使用等の制限)3項

専門家でも「ネット・ゲーム依存症につながる」というリスクを示すことが限界であるにも関わらず、相談等の努力義務を課すことで、子どもの相談が多発することが想定される。専門家の数も限られていることから、親に安易な努力義務を課すのではなく、学校等が主体となり、専門家を入れた上で、依存症となった児童を個別に対策する方策を採るべきである。

附則2条(検討)

施行状況等の評価については、規制について反対する側、賛成する側の双方から聞くことが望ましいため、附則にその旨を書き込むべきである。

4.子どもの権利条約との関係について

日本は子どもの権利条約に批准しており、憲法上、その内容を守ることが求められている。
第12条「自由に自己の意見を表明する権利」、第31条の「休息及び余暇についての児童の権利」等の侵害の可能性があることから、再度の議論が必要である。

5.条例制定およびパブコメ募集に当たっての手続き上の不備について

本条例は香川県内の子どものみならず、他都道府県の子どもや香川県内の大人に対しても影響を及ぼす内容の条例である。にも関わらず、

  1. 検討会での議論の内容が一般に公開されていない
  2. パブコメの募集も通常の1ヶ月ではなく、2週間と限られている
  3. パブコメの提出できる者に限定がかけられている(通常の香川県の条例では、限定はなされていない)
  4. 議会においても、委員会が開かれず、議論もなく最終日の採決のみで決められるとのことであり、透明性に非常に欠ける

特に4については、少なくとも委員会での議論を行い、立法者としての法解釈や立法事実等について議事録として明らかにするべきである。

【参考資料】
「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例を考える」講演資料(井出草平 2020)
http://idesohei.sakura.ne.jp/files/2020.01.25ICCv3.pdf

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ざしき
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